火焚龍之介の過去


『この子、新しい彼氏』


『……お前の好きそうなツラだな』


 ピンクのメガネをかけた彼。はにかむような笑顔がよく似合っていて、大学生になるまで他人とまるで付き合った事がない純真無垢な子。


 恋愛経験が浅く、男性が好きなのか、女性が好きなのか、まだ完全に理解していないような状態の彼。


『凄くそそられるよね』


『お前が下品なのはいつもの事だけどな……大学でそんな話すんなよ』


 大学の食堂で卓を挟んで、僕と彼は食事を楽しんでいた。


『しかも食事中だしね』


『分かってるならその……事後の写真しまえ。流石に気まずすぎる』


 スマホでは、上裸の僕と彼が頬をくっつけて、カメラに向かって笑顔を向けていた。


『……ぴかりんも、ちょっとは期待してたんじゃない?』


『……』


『ほら、エロ小僧』


『小僧じゃねぇよ小僧じゃ』


『エロはやっぱり否定しないんだ……男子って、大体エロい事しか考えてないよね。ちょっと信じられないんだけど』


『お前ほどじゃねえよ』


『僕の頭の中とか、ぴかりん分かるの?』


 彼は分かりやすく笑みを浮かべて、当然と言うような顔で手元のハンバーグ定食を切り分ける。


『分かるに決まってんだろ。昨晩のエロの事で頭いっぱい、だろ。このムッツリスケベが』


『残念、今はぴかりんの事しか考えてないから』


『……』


『ねぇ、都合悪くなったら黙るの、ナシってルールにしようか』


 ハンバーグを口に運ぶ瞬間に固まってしまった彼に、そう告げる。


『……汚ねぇぞ、おい』


『破ったら自分の性癖を一つ暴露する事。ウソは絶対ダメだからね?僕らの友情に、瑕疵があってはいけない』


『それ、どっちにしろお前が得するだけじゃねぇか』


『僕の性癖、知りたい?』


 僕は、茶目っ気たっぷりにそう言ってやる。勿論上目遣いで、彼より少し小さな体を、彼の目の前で表現する。


 彼は、一旦宙に置いていたハンバーグを、皿の上に戻して仏頂面になった。


 そしてとんでもない事を言う。


『———30秒黙ってたら10万やる』


『ちょ!ズッル!!』


『はい、い〜ち〜』


『……』


『金の亡者だな』


『……』


『……マジで黙ってるつもりかよ』


 早く数えろと、顎で彼の行動を催促する。


 彼は少し呆れたようにしてから、鞄から無造作に財布を取り出すと、万札をポンと机の上に取り出した。


『10万!!』


『はい、30秒経ってないので没収でーす』


『ずる!ズルすぎ!!』


『いや、勝手に喋ったのはお前の方だろ』


『いや、そ〜うっ、だけどッ……!!一瞬ほんとにくれると思っちゃったじゃん……!!』


『ここの食事くらいは奢ってやるから、諦めるんだな』


『僕の10万……』


『正確には、俺の親が稼いだ金な』


 彼はニヤリと笑って僕を見下ろすように言った。


『ほら?早く教えてみろよ。お前の性癖とやらを』


 ニヤニヤしながら余裕の構えを見せる彼に、僕はむくむくと反骨心を滾らせる。


 僕は席から身を乗り出すようにして、彼の方に体を近づける。


 少し近づいた彼の顔が、驚愕に染まっているのに気づいて、少し機嫌を良くする。


 ざまぁみろ、と心の中で得意げになって、僕は彼に近づけた顔を、彼の耳元まで持っていく。


『———鎖骨と指。あと口元。これが僕の好きなとこ』


『……!!』


 前のめりになった体を、喜色満面で元に戻すと、彼は鼻から赤いものを垂らしていた。


『……やっぱり、エロガキじゃん』


『……うっせ』

 

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