火焚龍之介の過去
『リュー君、どうして……?他に彼女が居たの?』
『彼女って言うか、彼氏なんだけどさ……ごめん。なんか、途中から気持ちが離れちゃって。後輩の子なんだけど、ピンクのメガネが似合う、すごい可愛い子だったんだ。だから、つい……』
『ついって何!!ついって!!それって……浮気でしょ!!ダメだよリュー君!彼女は私なのにっ!!』
『じゃあ、彼女辞める?』
『えっ……?』
大人しかった彼女は、いつしか変わってしまった。
僕の名前を、何かかけがえのないものかのように呼んでいた彼女の影はもう無くて、リュー君リュー君と、従姉妹のように媚びた顔つきで呼び始めてから、僕の心は移ろってしまった。
変わるのは僕じゃない。いつも相手の方。
僕が好きだった相手は、いつの間にか居なくなってしまう。
それを人は、"本性が出た"って言うけど、人類が皆、恋人とただの知人に対する接し方を変えないかと言えば、そんな事はありえない。
僕が好きだったのは、"知人の方の彼女"だった。
ただ、それだけ。
『ねぇ!待ってよリュー君!!』
『……その呼び方、前にも辞めてって言ったんだけど』
『どうしてっ?!"あの子"はそう呼んでたじゃん!!』
『……碧か。あれはもう嫌いだから、真似しない方が良かったね』
『待ってよぉ、待ってよリュー君……』
誰も居なくなった講義室で、彼女と出会った場所で、ひっそりと別れを告げて扉を開けたかと思うと、扉の横には彼が居た。
『……聞いてたの?』
『お前、こっぴどい振り方しないとダメな事でもあんの?』
『うん』
『怖えな。なんだよその理由って』
『なあなあにして終わらせると、単なる喧嘩だと思われちゃうから、キッパリ別れを言っておかないとダメなの』
『だとしてもありゃあ……また刺されるんじゃねえか?』
過去に二度ほど、僕は付き合った人に刺された事があった。
いずれも彼が居合わせたから、大事には至らなかったけど。
大体彼といつも一緒にいるのは、僕の身の安全を守ってもらうためでもある。
『大事なのは、別れた後のフォローだよ。ちゃんと暴走しないように、メールは入れておくんだ』
『……それは、なんて言うんだ?』
『"君はとてよ素敵な人だよ"ってさ』
『……クソみたいな話だな』
僕は彼の言葉に、返すように笑った。
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