火焚龍之介の過去
『……あの子?名前なんていうの?』
『確か……森宮、だったか?良さそうじゃないか?顔も良いし』
『うーん……確かにそうだけど……』
僕は隣の彼と、彼女の顔を交互に見比べる。
それに気づいた彼が、僕を胡乱げに見返した。
『……何だよ』
『ちょっと、ため息でもつきたい気分』
『どういう意味だよ、オイ』
『じゃあ、行ってきまーす』
『……戻って来たら、話し合いだからな』
『はぁーい』
『———森宮さん?隣、大丈夫?』
『え……ヒタキ、君?』
『うそ、僕のこと知ってるの?』
『ええっと、有名人だよね、なんか入学した時から』
彼女は、僕を見たり視線を逸らしたり、チラチラチラチラ、それを繰り返している。
人と話すのが苦手なのかな。
『……別に無理して目を合わせなくて良いよ』
『あぁっ!!いや、これは、違うの!ごめんね!キモいよね!!』
何だか知らないけど、今度は乾いた嘘くさい笑い声を出し始めた。
明らかに無理していると分かる笑顔を向けられて、誰が喜ぶというのだろうか。
『君、笑顔あんまり得意じゃないんだね』
『あ!ご、ごめん!ごめん!』
『———お手本見せてあげる』
笑顔は作るものだ。
でも、それは決して無理をしてじゃない。
心から、自分を錯覚させて、本当に笑顔を向けたい対象を思い浮かべる。
《赤い蝶がいたんだ》
『……君は、ずっと僕の心の中に居るね』
『ひゃいっ?!!』
『あぁいや、こっちの話』
目の前で、だらしなく口を半開いている彼女の目を見る。
『ねぇ、僕今日の講義全然聞いてなかったんだけどさ、ノートとか、取ってない?見せて欲しいんだ』
『えっ?えっ?……じゃ、じゃあ、直ぐに出すから』
『あぁ、別にタダで見せて貰おうなんて思ってないからね?ジュース奢ってあげるから、一緒に自販機のとこ行こ?』
『あ、う、うん!!』
連れ立って講義室を出ていく僕の方を、彼がじっと見つめていた。
『……なんであんなあっさりいくのか、マジでわからん』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます