火焚龍之介の過去


 大学内では、意外な出会いがあった。


『あれ?碧?』


『奇遇だね、リューくん』


 僕は久しぶりに見る従姉妹の顔に、戸惑いを隠せなかった。


『……この大学に入ったんだ』


『うん。本命に落っこちちゃって、ここに入ったの。でも、りゅーくんが居るなんて思わなかった』


 微笑む彼女の面影は、かつての姿と二重に重なって見えた。


 物凄い偶然ではあるものの、それ以上の驚きは無かった。


 はにかむ彼女の笑顔に心動かされるということもない。


 僕は笑顔を作って、彼女に同じように笑いかける。


『じゃあ、後輩だね?宜しく、碧』


『……はい、宜しく、お願いします』


 僕にとって血縁とは、呪いのようなものだった。


 彼女も遠いと言えど、僕との縁は浅くない。


 好意的な笑みのその裏に、僕はかつての両親を幻視する。


 まるで劇薬だった。


『じゃあ、友達が待ってるから、行くね?』


『えっ、もう行っちゃうの?まだ授業は……』


『ごめん、約束なんだ』


『あっ!じゃあ連絡先交換しよ!私からまた連絡するから!』


『ごめん!また今度!』


『りゅーくん!!』


 僕の視線の先には、既に彼の姿があった。


『……新しい彼女か?手が早えな。新入生だろ、アレ』


 少し仏頂面をした彼が、僕の分の昼食を持って佇んでいた。


 僕は彼のところにつくと、本心から笑いかける。


『何のこと?知り合いに挨拶してただけだよ?』


『いやもう、ほら、あの子めっちゃこっち見てるじゃん。単なる知り合いなわけ———』


『ほら!行こ!!』


『ちょ!服引っ張るなって!両手塞がってんだから!!』


 僕は振り返らずに、彼を引っ張って人目のつかない所まで行く。


『……なんでそんなに急いでんだよ』


 止まってから、彼は不審な目を僕に向ける。


『さぁ、何でだろうね』


『あからさまに誤魔化しやがったな。あいつ……顔は覚えた』


『……忘れて良いよ』


『怪しい奴だな。さっさと白状しやがれ』


『い〜や〜だ〜』


 体をぶんぶん振って嫌なことを全力でアピールする。


 彼は僕の顔を見ると、目を伏せて笑った。


 僕は彼に釣られて、また笑うのだった。

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