火焚龍之介の過去


『———おい、しっかりしろ!おいって!!』


 病院で目が覚めた僕は、まず初めに端正な彼の顔を見た。


『……あれぇ……?ぴかりん?』


『っ!!リュウ!!』


 ベッドに寝かされた僕の体には、幾つかの管が差し込まれていた。


『……また病院来ちゃった。あんまりお金無いのに……』


『んな事言ってる場合かよ!リュウ!何があった!誰かにやられたのか?!』


『そんなわけないじゃん……外傷は無かったでしょ?』


 心電図に走る稲妻が、まだ僕の生命を主張してくれている。


 彼と別れた後、おそらく僕は自分の部屋で倒れたのだろう。


 そして連絡に応じなかった僕を不審に思った彼が、病院に電話して僕をここへ連れてきた。


 そういった筋書きであるはずだ。


『参ったなぁ……知られちゃった』


『何言ってんだよ……!!苦しかったなら相談しろ!!"友達"だろうが!!心配させんじゃねえよ!!!』


『……ちょっとうるさいよ、ぴかりん』


『うるせえ!!もう喋んな!!』


『それこっちのセリフ……』


 ぎゅっと僕の手を握りしめる彼の体温を感じる。


 ドラマチックな出会いですら無かったけど、彼だけは何故か、ずっと僕と一緒にいた。


『もう、無理すんな……!!』


『無理だよ、僕、もうすぐ死んじゃうから』


『……は?』


 こんな単純な言葉が、まるで理解できないとばかりに彼は言った。彼の涙を見たのは、初めてだった。


『———僕、寿命が決まってるんだ。殆ど生まれた時から』


『……何を』


『僕の父親も母親も、苦しくて、耐えきれなくて僕を捨てちゃった。だから、僕は死ぬまでに、沢山の人に愛されたい』


『だから、何言って……』


『ぴかりんはさ、僕より頭良いけど、物分かりが悪いよね』


『……そうだよ、だから、何言ってるか分かんねぇ』


『 僕も、分かりたくないよ。苦しいよね、自分の大事な人の寿命が決まってるなんて。苦しくて耐えられない。一番最初にそんな人を見ちゃったから、もう、諦めちゃった』


『嘘つけよ……お前、清々しいほどのクズじゃんかよ……嘘くらい、平気でつくだろ』


 彼はまだ、僕の言葉が嘘であると信じてくれているらしい。


『……ごめんね、近年稀に見せる本当の言葉が、こんな感じで』

 

 彼は僕が横たわっているベッドの脇で、祈るように僕の手を握ったまま、膝をついた。


『だから、ここからが本題。"友達"なら僕のお願い、聞いてくれるよね?』


『……当たり前だろ。誰に言ってやがる』


『僕の……今のところ、一番大切な友達にだよ』


 彼は涙で覆われた顔で、力強く頷いてくれた。

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