火焚龍之介の過去



『……なぁ、毎回疑問に思うんだけどさぁ』


『うん?何?』


『なんでお前、こんなにモテんの?』


 それは彼のスマホだった。


 着信を知らせる赤い通知ドットが、瞬く間に増えていく。


『お前と別れた後、妹から大量に連絡が入ったぞ。お前、なんもなかったっていったよな?何したんだ?』


『えー、写真撮っただけだよ?ぴかりんも見たでしょ?』


『……見たが、あんな気まずい思いしたのは初めてだよ。なんであんな近いんだよお前。俺の妹はあんまり男に耐性ないんだぞ』


『じゃあぴかりん、なんで僕を妹に会わせたのさ……』


『俺の妹なら少しは真面目に恋愛するだろうと思った結果だ』


『つまり、ぴかりん自身への信頼で彼女を推薦したって事だね?』


 彼は長い顔をして、しぶしぶ白状するように告げる。


『まぁ、平たく言やそうなる』


『ふーん。自信過剰〜』


『そうだったみたいだな……!』


 彼はメッセージアイコンを開いて、さらに顔を顰めているようだった。


 恐る恐る指を動かしてパネルを操作する音が聞こえるが、着信音がより苛烈になる音を聞いて、僕は席を立った。


『じゃあ、宜しくねぴかりん』


『ふざけんなッ……!!』



£££




 僕は他人に、酷く僕を愛して欲しい。


 それ以外何もいらないと言えば、人は大袈裟な事だと笑うだろうか。


 ここは彼の家だった。


 それはまずい。きっと彼が気付く。


 ふらふらとした足取りで、僕は自宅のアパートまで辿り着いた。


 階段の一段を登るのが、酷く億劫だった。


 一歩を踏み出す度にふらつく脳を、治るまで待ってからまた一歩を踏み出す。


「カッ……」


 最後の一歩を踏み出したところで、口の端から噴き出すものがあった。


 右手で拭うと、見慣れた赤色。


 僕が愛される時間は、もう限りがある。

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