火焚龍之介の過去



『どうもこんにちは。あなたが火焚龍之介さんですね』


『うん、そうそう。僕が龍之介って言うの。よろしくー』


 彼女は酷く可愛かった。さすがは遺伝子と思いながらも、その瞳の奥にある涼しさを見て、兄弟でも全然違うんだなぁと実感した。


『それで……兄のご友人という事ですが』


『うん、そうだよ?』


『……失礼ですが、兄とは恋人ですか?』


『えっ?』


 突飛な発言を受けて、僕は一瞬頭に疑問符が浮く。


 否定の言葉は幾らか思い浮かぶが、それを否定したくない言葉の方がいくつも思い浮かんだ。


『う〜ん?』


『……成る程、心中お察しします。それでは、私はお邪魔であるようなので、この足で空港へ向かってしまいますね』


『あ、ちょっと待ってよ』


『なんでしょうか』


『写真撮ろうよ、写真。ぴかりんとも撮った事ないんでしょ?』


 彼女は軽く首を傾げて、僕の方を見つめる。


『それを貴方と撮るんですか?少し背景が見えてきませんが』


『ぴかるんが撮った事ない写真見せて、自慢したいだけなの。ちょっと付き合ってもらっていい?』


 彼女は目を丸くした後、僕より大人びた仕草で笑ってから、こくりと頷いた。


『わかりました。どのように取りますか?』


『じゃあ、恋人のフリでもしようか。実際、お見合いみたいな感じで、お互いぴかりんに送り出されたわけだし』


『それは、具体的にはどのように?』


『じゃあ、ハートの片っぽ作ってよ。こうやって?』


『こう、ですか?』


 彼女はぎこちなく手を動かし、僕と似たような、しかし歪なハートを形作る。


『そうそう上手い上手い!じゃあ撮るよー、はい、チー……』


『ちー……ず』


 パシャリと音が鳴って、スマホの画面に僕と彼女の姿が映し出される。なかなかの良い出来栄えに、僕は満足する。


『ありがとね、えーっと……ちのちゃん、だっけ?』


『……はい、智乃と申します』


『また会えたりする?』


『それ……は、どういう意味でしょうか?』


『ええっ?智乃ちゃん頭いいんでしょ?ぴかりんから聞いたよ、君の自慢。僕がミジンコに見えるってさ』


『……あいにく、研究や開発関係の現場でしか活躍の目を見ない能力でして……その、カミュニケーショーン能力の方は、まだまだでして』


『ふーん。まあ、ちょっと新鮮だったから、また会いたいなぁって思っただけ。友達の妹とか、ちょっと不思議でさぁ』


 僕が笑うと、彼女は表情を固くして答える。


『……兄とは、ご友人、なのですか?』


『うん?そうだよ。言わなかったっけ?』


 僕が疑問に思って口に出すと、彼女は俯いてしまった。


 その数瞬後、彼女は顔を上げた。


 ささやかな笑顔だった。


『……はい、また、お会いできたら嬉しいです』


『うん、また会おうね!』

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