火焚龍之介の過去


 人に愛されるには、まず自分から愛さなくちゃいけない、なんて事はなくて。


 僕は笑顔を振り撒くだけで、他人から愛を貰うことが出来た。


 愛は目に見えないけど、きっと人間の心臓のの形をしていると思う。


 だってそれが壊された時、人はとても苦しむから。


『え、うそ、だよね?』


『ううん、違うよ。嘘じゃない。別れよ、って言った』


『な、なんで?!なんで?!!わたし、嫌なところ全部直すって言った!なんでもするって言ったよ!!どうして?!ねぇどうして!!』


『僕、多分、君のことがそんなに好きじゃなかった、かも』


『なんでぇ……!!』


 床に崩れる彼女を見て、僕はひどく冷たい気持ちになった。


 酷いな。僕は好きだと思ったのに。その気持ちを裏切るなんて。


『じゃあね』


 そのまま動かない彼女を置いて、僕は"彼"の元に向かった。


£££



『ほんとに泊まっていいの?』


『うん、1人しかいないから』


 彼の名前は、桐原光瑠きりはらひかるというそうだ。


 彼の家はとても広いのに、彼の他に誰も住んでいなかった。凄いと思ったのに、それと同時にひどく寂しいと思う、不思議な家だった。


 僕らはリビングに集まって、彼の用意してくれたものを食べたり、好きなゲームを手に取って、一晩中遊んだりした。


 僕らが知り合ったのは、僕が転校してすぐの日。


 あの時僕を見ていなかった彼が、一体何を見ていたのか、それがひどく気になって声をかけたんだ。


『蝶を見てたんだ。赤い蝶。綺麗だったから、眺めてた』


 どうやら空を、赤い蝶が飛んでいたらしい。

 

 しかし、赤い蝶などこれまで見たことがなかったため、僕は首を傾げた。


 そんな僕を見て、彼は初めて笑った。


 その顔を見て、僕の次に可愛いな、と思った。


『僕と初めての友達になってよ。僕、君が好きかも』


『俺のことが?……ほんと?』


『うん』


『……友達か。うん、俺もうれしい』


 そう言ってはにかむ彼に、どうして友達が居なかったのだろうと、僕は不思議に思った。

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