火焚龍之介の過去


 視界いっぱいの赤色。   


 俯いていた顔を上げると、信じられないと言わんばかりの両親の顔があった。


 湿った自らの手を見下げると、やはりそこには赤い水が滴っている。


 鼻をつくその匂いは、とても懐かしい感じがしたけど、それによって蘇るのは、どれも苦痛を伴う記憶。


 僕の血だ。



£££



『皆さーん、こちら、火焚龍之介くんでーす!これから皆んなの、お・と・も・だ・ちになりまーす!仲良くしてあげてねー!』


 妙な声を上げながら、僕の紹介をする大人を見る。


 彼女は僕を見下ろすと、自己紹介、と口を動かした。


『ひたき、りゅうのすけです……よろしくね』


『はぁーい皆さん!!はぁくしゅー!!』


 パチパチパチパチ……


 こちらを向く視線は、どれもこれもが好奇好奇好奇好奇……目が回るようだった。


 その中で1人、ボーッと窓の外を見ている子を見つけた。


 同じ小学生にしては上品な振る舞いで、身につける服も1人だけ趣きが違っていた。


 目を引く容姿に、自然と吸い寄せられるように向かっていた。


『ねぇ、りゅうのすけくん!私、メグって言うの!おともだちになって!』


 歩みを妨げられたことに不快感を覚えるが、それを表情に出したりはしなかった。


 僕は可愛いから、皆んなに愛されなくちゃいけない。


 嫌なことをする人を、人は愛さない。


 だから僕は、精一杯の作り笑顔で、彼女に答えた。


『うん、いいよ。ともだちになろ!』


『私も!』『あ、オレかざまって言うんだ!よろしく!』『ねぇどこから来たのー?』『いえどこにあるの?近い?』『昼休みいっしょにあそぼうよ!!』『席、こっち来て!』『なんで転校したのー?』『頭良さそー』


 視界の先にいる彼は一向に動かなかった。


 騒がしいこちらを一瞥して、それからまた無感動そうに外を向いた。


 適当に周りの人間と話をしていると、チャイムが鳴った。


『はぁーい!皆んな仲良く出来てえらいですね!それじゃあ龍之介くん、放課後はまた職員室に来てね!みんな、これから龍之介くんと、仲良く学校生活を過ごしていきましょー!』


『『『はぁーい』』』

 


 

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