わるもの



 朝の目覚めは最悪だった。


 彼の作った料理が美味し過ぎて、思わず酒盛りを始めてしまったのが運の尽きだった。


 普段は諌める側である彼も、僕の愚痴を聞いている間に気を遣ってくれたようで、勧められるがままに飲んでいた。


 よって、二人仲良く大学には大遅刻である。


「……あー、しまったなぁ」


 二日続けようとは思ってなかった。


 でも、明らかに昨日は間に合わないだろうなと自覚していたし、確信犯ではあった。


「……ん」


 腰元に抱きついている彼を見る。


 筋トレが趣味というのは本当のようで、適度に肥大化した筋肉はしっかりと質量を伴っていた。


 すやすや眠っている彼の横顔は、やはりどこからどう見てもしっかりカッコ良かった。


「どうして彼女が出来ないんだろうねぇ〜……」


 長過ぎず丁寧に整えられた黒髪は、傷みもせず艶やかなまま流れている。


「ひょっとしたら、誰かが邪魔してるのかも……?」


 その髪を指で梳いていると、驚くほど抵抗なく流れていく。


「悪いやつだね、そいつは」


 何度繰り返してもそれは同じ。


 何度か染めて傷んだ自分の髪に触ると、その違いは歴然だった。


「これだけは、ちょっと嫉妬しちゃうな」


 彼が起きるまで、僕はそのまま彼を見つめていた。


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る