たいせき


「えっ?」


 彼は酷く動揺していた。


 アパートの鍵を開けて、扉を開けようとした時、奥の方からドタドタと盛大な足音が聞こえた。


 向こうから扉を開けてきて、その顔を最初に見た時は、微かな希望と歓喜が瞳に宿っていた。


 そして彼は今現在、親に捨てられて餌も食べてない燕の子みたいに、憔悴し切った態をしていた。


「……え?」


 それでも、驚愕の色はなお濃かった。


 遠くで犬が鳴いた気がした。現状意識は彼から逸れて、サボってしまった講義のことを考えていた。


 なんて言い訳しよう。結構先生と仲良かったのにな。云々。


 隣には、彼女がいる。


 僕は彼と話す気は無かったから、取り敢えず彼女にその場を任せて暫く近所を回ることにした。


 笑顔で僕を見送る彼女と、呆然と意識の定まらない彼の対比が印象的だった。


 

 


 

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