やめた


「先輩?」


 酷く不安そうな顔。捨てられる事を恐る無能な飼い犬の顔。


 心の中でブーイングが鳴り止まない。


 誰に対してかは分かってる。目の前の木偶の坊に対してだ。


 最低かな。でも、これじゃ駄目だ。


「やっぱり死ぬのは無しにしよっか」


「え?」


 安堵と不安がないまぜになった困惑の表情。まるでネバーランドから帰ったウェンディみたいな、ブルーとピンクの混ざったコントラスト。


 彼がピンクのメガネを数時間前に外して、その時から僕の頭にかかっていた靄は、たった今晴れてしまった。


 彼ではダメだった。失敗だ。


「シャワー浴びてくるね」


「あっ」


 彼は僕のベッドに残されたまま、その傷一つない肌を心細げに掌で隠すだけだった。僕は背を向けて扉へ向かう。彼の瞳は相変わらず僕の背で揺れているのだろう。


「先輩……?」


 僕はそのまま、適当な服を羽織って夜の町へと繰り出した。


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