後輩


「ひかる先輩、りゅーくんってどこに居るか分かりますか?」


 きっと俺の顔は、大嫌いな料理を目の前にした子供みたいな、嫌悪感を隠そうともしない表情をしているに違いない。


 昼前の講義が終わり、ドアを開けたところで彼女は立っていた。


 あいつの後輩だ。俺も顔は知ってる。


 この関係がなかなか複雑らしくて、あいつには詳しく聞いていないが、どうやら後輩である以前に親戚の子であるらしく、大学に入ってから、度々面倒を見ているらしい。と言っても歳はそれほど離れていないため、一方的に気兼ねのない関係であるとあいつは言っていた。


 あいつのウンザリした顔が目に浮かんだ。


「知らないな」


「そうですか。先輩からりゅーくんの方に、どこに居るか聞いてもらって良いですか?」


「自分からやれば良いんじゃないか?」


「……」

 

 少し俯いた姿を見て、ああ、これはあいつの悪い癖が出てるなと確信した。


「電話してみたか?」


「出ませんでした」


「そっか」


 なら、打つ手は無いなとその場を去ろうとすると、小柄な背に回り込まれる。


「どけよ」


「先輩から、りゅーくんに連絡してくれませんか?」


「嫌だよ」


「どうしてですか?」


「面倒くさい。あいつがお前に連絡しない以上、俺からあいつに聞き出すのは道理じゃない。あと単純に俺はお前が嫌い」


 ハッと目を見開いて、絶句している後輩の顔を見て、そんな表情も出来るんだなと少し気分が良くなった。


 じゃあな、と今度こそ別れを告げて、その小さな影を置いて行った。

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