学友
「ねぇさー、ぴかりん。今日りゅーちゃん見なかった?おんなじ講義取ってる筈なんだけど、居なかったんだよねぇ」
間延びした声はウザったくて、それに伴って甘ったるい女の匂いがしたから、思わず息を止めて、それから少しして後ろを振り返った。
ヒラヒラ揺れるダサいピンクのゴシックが妙に鼻についたから、下からじっくりソイツの顔まで見上げたあと、鼻を鳴らして言ってやる。
「知らねぇの?あいつ今日サボりだよ」
「ウッソー。りゅーちゃんサボりとか絶対しないと思ってた」
「じゃあな」
「あーん、待ってよー」
態とらしくストローク気味な足音が反響して迫ってくる。内心で忌避感と嫌悪感が泥のように湧いてくるが、早足で過ぎ去ることはしない。
直ぐに背後まで迫られて、歩調を合わせながら付き纏わられる。
「なんでりゅーちゃん休んでるの?」
「そんなの、本人に聞きゃ良いだろ」
「えー、私りゅーちゃんの連絡先とか知らないしー」
「知らねぇよそんな事」
歩調は早めないし落とさない。そのままのペースで次の講義室へと向かう。
「ねぇ、ぴかりんってりゅーちゃんの知り合いでしょ?りゅーちゃんの連絡先、教えてくれない?」
そこで足を止める。
苛立ちと嫌悪感が増す。もうもうと腹の底から湧き出てくるもんだから、少しは表情に出てしまっていたかもしれない。
「本人に頼め」
講義室のドアを開けて、ピシャリと閉める。それが無言の拒絶であることを、彼女は理解できるだろう。
張り付いたみたいな気色の悪い笑顔のままで、彼女はずっとドアを見つめているに違いない。腹の中はきっと、俺と同じかそれ以上に煮えたっているのだろうか。
別に、親切にしてやる義理はないし、それであいつが報われるなら良いが、彼女はあいつにとって面倒の種にしかならないだろう。
それが分かっているから、俺は彼女を遠ざける。
俺たちに、関わってくるんじゃねえと。
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