めっせーじ


 珍しく講義をサボった僕の元には何件かメールが届いていた。


 上から親友、セフレ、後輩……あとは少し分かんない。友達かな。


 何件かのメールを相手のアカウントごと消去して、上から三件だけをデータに残す。もう少しで死んじゃう僕に、友達未満の知り合いなんて必要ないのだ。


ぴかりん:どしたん?


 既読を付けてしまったので、急いで返信する。


りゅーちゃん:別に、サボり


 秒速で既読がつく。


ぴかりん:そか


ぴかりん:珍しい


ぴかりん:てか誘って欲しかった


 すぽんすぽんすぽん、と子気味よく返信が帰ってくる。


りゅーちゃん:また今度ね


ぴかりん:てか俺から誘うわ


ぴかりん:来週の今日な


りゅーちゃん:無理


ピカリン:(写実風の恐竜が首を傾げながらハテナマークを浮かべている無印スタンプ)


ぴかりん:理由を述べよ


ぴかりん:もしかして彼氏?


りゅーちゃん:いえーす


ぴかりん:リア充キモ死ね


ぴかりん:(写実風の恐竜が怒りマークを頭に浮かべて街を破壊している無印スタンプ)


りゅーちゃん:(『生暖かい目で相手を煽るクソガキスタンプシリーズ第三弾』「ご愁傷様」という吹き出しが付いているスタンプ)


 よし。次はセフレちゃんか。


股臭浮浪少女:体調悪い?


 ちなみに名前は勝手に自分で設定してる。


りゅーちゃん:別に


 よし。じゃあ最後に後輩ちゃん。


ノンデリーナ:大丈夫ですか?


りゅーちゃん:大丈夫だよー


 ピロン、とスマホが通知を知らせる。なんだ股臭か。一旦無視。


 次に、スポン、と後輩から即座に返信が来る。


ノンデリーナ:本当ですか?


りゅーちゃん:本当だよー


ノンデリーナ:じゃあ、どうして休んだんですか?


りゅーちゃん:サボり


ノンデリーナ:彼女ですか?


 なんで皆んな分かるんだろう。凄いな。でも、ちょっと惜しい。


りゅーちゃん:似たようなもん


ノンデリーナ:先輩、彼女いたんですね。私より可愛いですか?


りゅーちゃん:彼女じゃない


ノンデリーナ:じゃあどういう関係ですか?それと私より可愛いですか?


 後輩、面倒臭いな。一旦既読無視で。


 仕方なく股臭の方に向かう。


股臭浮浪少女:どうして休んだの?


 もう、こればっか。こっちも面倒くさいなー。


りゅーちゃん:別に関係ないじゃん


股臭浮浪少女:関係ある


りゅーちゃん:ないよ全く


股臭浮浪少女:心配だから


股臭浮浪少女:教えて欲しい


 怠い。こっちも無視。


「ん……」

 

 そうこうしていると、隣でうっすらと彼が声を上げた。


 ベッドの頭方向に備えてある小さな窓から、九時の日差しが細く彼の顔にかかっていた。


 彼の唇が微かに揺れるたび、昨日の事を思い出す。


 少し目にかかっていた髪を耳にかけてあげると、彼は少しずつ瞳を開き始めた。笑いかけると、ぼんやりとした声を上げる。


「おはよ……ございます」


「おはよう。朝ごはんどうする?」


「最後なんで、先輩の手料理が食べたい、です……」


「別にいいけど、有り合わせになるかな」


「なんでもいいです……先輩の、手料理が……」


 そのまま二度寝に落ちてしまった彼の髪を、再度整える。


 自炊はしてるけど、自分ではそれほど上手いとは思っていないし、微妙な腕前だと自負している。リアクションに困る彼も見てみたいが、それより僕のプライドが傷つく可能性が高い。


 それでも最後だし、まあ良いかな。


 

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