第2話 赤い月が示すのは
『──────ここは、人間が恐れ忌み嫌う存在、化け物と呼ばれた者たちの住まう世界。あなたはそんな世界に選ばれてしまったのです』
この世界は今、新たな王を求めている。王となれるのは強き者。そして────赤い月に認められること。
【ツキニヨバレシモノ チギリヲカワセ
ココロヲカヨワセ トモニイキヨ
シンナルオウヲ ソノミデシメセ】
それは赤い月からのメッセージ。
「赤い月が示したのは人を愛すること。あなたは月に選ばれこの世界に呼ばれた。我々から愛され、新たな王を決めるために」
全てが唐突で突飛で、完璧な理解はできていない。けれど、私は────
「ここにいてもいいってこと?」
「…えぇ。我々としてここにいてほしいですが………帰りたくはないのですか?あなたは人間でしょう」
私の言葉に驚いたのか、周りの空気が少しざわめいている。それでも私は……
「……帰りたくない。あそこに私の居場所はないから」
違うところにいられるなら。あそこから解放されるなら、真っ赤な空に赤い月…化け物の世界だろうとかまわない。人間の世界なんて……あんなところ、私の居場所じゃないから。
「…これは願ってもない言葉ですね。先ほどは実に不快な視線を送ってしまい、すみませんでした。ボクはセヴ。見ての通り人ではありませんが…仲良くしてくださいね、おねえさん……フフッ」
セヴと名乗った彼はなぜか席には戻らず私の隣に立った。彼のことはとても気になったけれど
「俺は認めねえ。こんな人間がここで暮らせるかよ」
不機嫌そうな顔をしていた一人が私を見下しながら部屋を出ようとした。
「自己紹介はした方がいいよ。ね?おねえさん」
なぜか隣に立ったままのセヴさんがニコニコしながら私を見る。笑っているのに目が笑ってない。さっきのビリビリとは違う、背筋が凍るような感覚に襲われる。
「チッ…ヴォルだ。てめえとよろしくする気はねぇ」
私を睨みながら名乗った彼は部屋を出て行ってしまった。
「彼のことは気にしなくていいですよ。おねえさん」
いつの間にか凍るような笑みからにこやかな笑顔に変わっていたセヴさんが私の頭を軽く撫でた。
「我はイビ。我もお前に興味ないから」
先ほどから何度か嘲笑っていた一人も名乗ってすぐに部屋を出てしまった。どうやら私は歓迎されてないみたい。
「お二人も、自己紹介を」
ずっと黙っていたリトさんが口を開く。
「ぼ、僕は…ジン……です…。僕も、用があるので…失礼します……」
おどおどしていた一人が小さく礼をして部屋を出ていく。
「ぼく…ベル…。おねえちゃん………」
目の前に人形のようにかわいらしい子がやってきた。けれどその子はクマのぬいぐるみをぎゅっとして、部屋を出て行ってしまった。なにか言いたそうな感じがしたけど、気のせいかな。
「フフッ。みんな君のことが怖いみたいだね。ボクはおねえさんのこと好きですよ」
いつの間にか、隣から目の前に移動していたセヴさんに見つめられ、その瞳に吸い込まれそうになる。怪しく光る紫の瞳。笑っているのにどこか怖い。
私の思っていることに気づいたのか、セヴさんは再び私の頭を優しく撫でた。一瞬だけ彼の掌が見えた。何かの模様…みたいな……あれは何だろう。
「セヴ、クロエさんに屋敷の案内をいたしますので」
「分かっているよ。またね、おねえさん」
リトさんが言い終わる前にセヴさんは私から離れて部屋を出た。
入ったときはたくさんいたのに気づけば私とリトさんだけになっていた。
「では、屋敷の案内をいたします」
人間の世界にもあるようなキッチンやお風呂、それぞれの部屋の場所など主要な部屋の案内が一通り済んでから私の部屋へ案内された。この屋敷も、そして私の部屋と言われた場所もすべてアンティークな雰囲気で統一されている。
案内が終わってからリトさんもいなくなり、私は一人になった。
中は教えてもらったし外に出てみよう。
これが、私と彼らのすべての始まり。
赤き月夜、蝶は舞う ぺんなす @feka
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