赤き月夜、蝶は舞う

ぺんなす

第1話 赤い世界、こんにちは

目の前に広がる光景は私の知る世界ではなかった。空には真っ赤な月。青空とは言えない赤い空。あたりには枯れた木々がいくつもある。どの木々も触れれば消えてなくなりそう。試しに一本の木に触れてみたけれど、少し触れた瞬間その木は塵となって消えてしまった。少し怖くなって後ずさり、あたりを見渡してもやはり枯れた木しか見えない。

「ごきげんよう。クロエさん」

枯れた木々の奥から声がして、人影のようなものがうっすらと見える。影は徐々に姿を現し、もう一度、私を呼んだ。

どうして、私の名前…。

姿を現した人物は、不思議な仮面をつけていた。顔の半分だけ。もう半分の顔には……左目に羽みたいなものが生えてる。キレイな、黒と白のグラデーション。頭には、角?も生えている。

「どうか怖がらないで。あなたをお屋敷へ案内します。どうか...一緒に来ていただけませんか?」

真剣な眼差しから差し伸べられた手は、どこか切なげで。

迷ったけれど私はその手をとった。


彼についていくと洋館が見えてきた。

ボロ洋館……とまではいかないけれど、外壁にはヒビが入っていたり、蔦のようなものが張っていたりと、あまり手入れもされていなく古い建物であることがはっきりとわかる。ボロ洋館と言うよりは、幽霊屋敷。

…………彼が言っていた屋敷ってここのこと?

聞きたいことはたくさんあるはずなのに、何から聞けばいいのかわからず、ただ私は彼の手を離すことなく進んでいった。気づけばそこはお屋敷の中。豪華絢爛…とは違うけれど、外観から予想してた感じとは少し離れた、雰囲気のある不思議な場所。色々見ている暇もなく奥へと進んでいき

「こちらです」

彼が私の手を離し扉を開けた。

「どうぞ中へ」

促されるまま中へと入ると

「おやおや、本当に人間がここに来るとは」

背筋がビリビリとする笑みを浮かべながら一人が近づいてきた。笑みと、品定めするかのような視線、そして怪しく光る紫の瞳に、私は思わず後ずさってしまった。

「ハッ、セヴもう嫌われてんじゃん」

嘲笑いながら後ろからまた一人やって来て。

「ボク…嫌われたのですか?それは残念」

「チッ…思ってもないこと平気で言うよねセヴって」

「そんなことはないですよ」

目の前にいる私を放置し二人で会話を始めてしまった。

「セヴさん、イビさん。席へ戻ってください」

私をここへ連れてきた彼がそう言うと、二人は素直に戻っていった。少しだけフフッと笑い声が聞こえた気がしたけれど、どちらかまでは分からなかった。

「さぁ、クロエさんも」

彼に座るよう促され、ソファに座った。

目の前にはさっきの二人と不機嫌そうな顔をしている人、おどおどしてる人、かわいらしい子の五人がいた。私のそばには案内をした彼が立っている。

「では、皆さん紹介します。彼女はクロエさん。この世界に選ばれた人間です」

選ばれた…?彼の言っている意味が分からなくて思わず見上げた。

「なに?なんも説明せずに連れてきたの?」

先ほど嘲笑っていた人が馬鹿にしたような視線を私に向けてきた。何も知らない私が面白いのかな。

「何も説明せず、申し訳ございません。では、改めまして。私はリトと申します。以後お見知りおきを。先程申し上げた通り、クロエさんあなたは選ばれました。この世界に。

──────ここは、人間が恐れ忌み嫌う存在……化け物と呼ばれた者たちの住まう世界。あなたはそんな世界に選ばれてしまったのです。新たな王を決めるために」

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