こがねいろ

K

本章

ある日、私はひとすじのかすかな小道をたどって森のはずれまでやってきた。


そこに広がる空気はしっとりと温かく、深い沈黙がすべてを包み込んでいた。


ふと足元を見ると、黄金色の光が地を這うように静かに広がっているのが見えた。光は朝もやの中で細い糸のようにしなやかに揺れながら、まるでやさしく私を誘うように漂っている。


「これは、いったい...」ひとりごとをぼそり。


光は私の言葉に応じるようにかすかに揺れ、次第に私の周りをゆっくりと巡り始めた。


どこからともなく微かな囁きが聞こえる、ような気がした。


それはやさしく、温かく、ほんのりと甘やかで、どこか遠い海の香りを思わせる、塩の気配すら感じさせるものであった。


気がつくと私はその光に身をゆだねていた。光はゆっくりと、しかし確かに私を包み込み、その柔らかなぬくもりが心の奥底まで浸透してくる。


体は次第に軽くなり、まるで風に乗って漂う羽毛のように、すべての重さから解放されていくのを感じる。筋肉は一つ一つほぐれ、心の中にはまるで雪解け水が滲み込むような安らぎが広がっていった。


「なんて、心地よいんだろう...」自然にそんな言葉が口から漏れていた。


光はしずくが震えるように、そっとゆらゆらととろけている。そのたびに瞼の裏には遠い日の淡い霧に包まれた野原の情景が浮かび上がってくる。甘く切ない香りが漂い、私は現と夢の境界へと引き込まれていくのだった。


光の中で私はすっかり溶けこんでしまったかのようだった。もっと知りたくなってふと小さな声で尋ねる。


「おまえは、誰だい?」


返事はない。ただ静かに私を包み込み、深い沈黙の中でその問いかけを溶かしていった。光の温もりととろりとした触感が、古い記憶の中にある懐かしさと重なり、胸の奥をじんわりと満たしていく。






どれほどの時が過ぎたのだろう。光はゆっくりと私を放し、すっと宙に溶けるように消えていった。そこにはただ澄み切った森の静けさと、淡い温もりの感覚だけが残されていた。


私は立ち上がり、そして再びあたりを見渡す。もうあの黄の光はどこにも見当たらない。

ただその感覚だけは胸の奥に確かに残っている。


「ありがとう。」


またひとりごとをぼそり。私は再び歩き始めた。それはもう姿を見せることはない、なぜかそれだけは確かにわかった。


「それでも...」


その安らぎを胸に抱いて私静かに森を後にした。

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こがねいろ K @myalgo0920room

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