ゲーム
「太陽、“王様ゲーム”って何?」
コソコソと太陽に問い掛けると、
「合コンの定番ゲームだ」
太陽は得意気に答えてくる。
ゲームが始まろうとしてるのに、あたし達はいまいち輪に入り切れず、みんなが「やろう」「やろう」と盛り上がりながら“何か”を用意する中、やっぱりヒソヒソと2人で話してた。
「どんなゲーム?」
「割り箸を配るゲームだ」
「割り箸配ってどうすんの?」
「そこからは謎のベールに包まれている」
「謎のベール!?」
「神秘の謎だ」
「神秘の!?」
「どうやら今日俺たちは、その謎のベールの中を覗き見るらしい」
「……何か怖いね」
「でもな、向日葵」
「うん?」
「合コンで“王様ゲーム”をするのは暗黙のルールっぽいんだ」
「合コンでも暗黙ルールが!?」
「合コンを
「うぬ」
まさかの“合コン”の暗黙のルールに遭遇したあたし達は、その神秘の謎を今正に体験しようとしていて、
「えっと……2人はどうする?」
「する!」
何故か仲間外れにされそうになったところを、何とか回避した。
太陽が言った通りみんなに割り箸が配られて、
「王様だ~れだ?」
「はい!」
張り切って手を上げたら、斜め前にいた男の子も手を上げてた。
一瞬どよめいたテーブルも、「立候補制じゃないよ」って太陽の“クラスの奴ら”に発言に、残念ながらあたしの王様は現実とはならなかった。
「推薦制か!? なら向日葵を!」
太陽のその言葉にも、「違う。くじ制だよ」って言葉が返ってきて、やっぱりあたしの王様は現実とならなかった。
神秘の謎のベールに包まれた“王様ゲーム”はいまいちよく分からないゲームだった。
王様が命令する役なのは分かったし、番号を配られるのも分かった。
だけど、唐辛子入りのお茶を飲んだり、熱々鍋のお豆腐を食べたりするのが、楽しい意味が分からなかった。
確かに変な顔で面白いけど、だから何だろうって不思議に思った。
それなら昔太陽が寝てる間に、鼻にメンソールのリップ突っ込んだ時の「ふごっ」って反応の方が面白かった。
だから3度目の“王様ゲーム”が終わった頃には、大したゲームでもないなってバカにし始めてて、
「さて、そろそろ本気でいきますか」
男子のその言葉に、これからが本番なんだと神秘の“王様ゲーム”を侮っていた自分を恥じた。
本気の“王様ゲーム”でも王様になれなかったあたしの割り箸には、“5”って数字が書いてあった。
「他の人の見ちゃダメだよ」って言われたけど、こっそり見せてもらった太陽の割り箸には“8”って数字が書いてあった。
「俺に“王様”が回ってきたら、向日葵のと交換してやるからな」
太陽がこっそりそう言った時、“それ”が起こった。
「1番と5番がポッキーゲーム!」
あたしの番号が呼ばれた。
新たな“ポッキーゲーム”などという謎のゲームの出現に、みんな「キャー」だか「ワー」だか一気にテンションが上がって、異様な盛り上がりをみせた。
「太陽君」
「何だ、向日葵さん」
「どうもあたしが選抜されたようだ」
「何!?」
「しかも、太陽君」
「何だ、向日葵さん」
「あたしこのゲーム得意かも知れない」
「マジか!?」
「今まで内緒にしてたけど、あたしポッキー7本ずつ食べれる」
「それは知ってたが、勝ったも同然だな」
「頑張れば8本ずついける」
「なら更に勝ったも同然だな」
「勝ったら何か貰えるのかなぁ?」
「分かんねぇけど、貰えるかも知れねぇぞ」
「ポッキー一年分とかだったらどうする?」
「おぉ! 半分俺にくれよ」
「やだ」
あたしの即答に「意地悪すんな!」って太陽が反論した時、
「1番だ~れだ?」
やいのやいの盛り上がってたみんなが静かになった。
「俺! 俺!」
そう言って張り切って手を上げたのは、太陽の“クラスの奴ら”の1人で、結構口が大きくて強敵な男子だった。
「5番だ~れだ?」
「はい!」
闘争本能むき出しで元気に手を上げたあたしに、みんなの視線が向けられて――…一瞬、またどよめいた。
みんな「え?」って顔してて、
「……いいのか?」
何故かその質問は太陽に向けられた。
あたしが選抜されたのに、何故か太陽に確認されたその質問に、
「別に問題ないだろ? 向日葵も自信あるみたいだし」
太陽がそう答えても、みんな微妙な反応だった。
やっぱりさっきまでずっと2人だけで話してたから、いまいちみんなの輪に入り切れてないあたし達は、逆にみんなのその反応に闘争心が芽生えた。
「太陽、あたし頑張る」
「おぅ、負けんな」
小声でコソコソ話すあたし達に、
「まぁ……本人がいいって言ってるからいいんじゃね?」
やっぱりちょっと微妙な言い方をする“クラスの奴ら”。
「後から文句言うなよ?」
何故か最後まで太陽にそんな気を使うみんなに、
「早く始めよう!」
張り切ってそう言ったあたしの口にポッキーが1本挿し込まれた。
チョコレートの方から食べたいのに、反対側を口に挿し込まれた。
頑張れば8本食べられるのに、1本だけ挿し込まれた。
「まだ食べちゃダメ!」
先っぽをフライング気味に噛んだら、すぐにバレた。
どうもポッキー1本を早食いするらしい“ポッキーゲーム”に、闘争心むき出しでシュミレーションし始めた時、1番の男の子があたしの正面に超至近距離で座った。
は? と思った時には、その男の子はもうポッキーの反対側のチョコレート部分を口に入れてて――…
一瞬の出来事だったと思う。
「スタート!」って王様役の人が言ったと同時に、反対側のポッキーを口に入れてた男の子が、バクッバクッって大きな口でこっちに向かってポッキーを食べて来て、太陽の「やべっ」って声が聞こえたと思った次の瞬間には、後ろから抱きかかえられて引っ張られてた。
余りに突然の出来事に、びっくりするしかなかったあたしは、気が付けば座ってる太陽の足の上に頭を載せて引っくり返ってる状態で、
「向日葵?」
「……」
上から覗き込んでくる太陽の顔が目の前にあった。
「向日葵、大丈夫か?」
「……」
「おーい、向日葵」
「……」
「向日葵聞こえてるか?」
「……」
「おい、ひま――…」
「太陽……」
「ん?」
「あた、あたし今……」
「うん」
「今、キスし――…」
「してねぇ」
「ふぇ?」
「何にもしてねぇ」
「だって唇に、」
「気の所為だ」
「でも絶対唇に、」
「夢だ」
「夢も何もあたし寝てないし、」
「向日葵」
「何?」
「どうも幻を見たらしい。帰ろう」
「え!?」
絶対に気の所為でも夢でも幻でもなく、絶対絶対唇に微かに1番の唇が当たったのに、
「昼寝が足りなかったな」
太陽は訳の分かんない事を言いながら、あたしを立たせて歩き出す。
けど、あたしには分かってた。
太陽がそうやって何とか誤魔化そうってしてるのは分かってた。
だって太陽が「やべっ」って言ったのを聞いたから。
木の上から落ちた時と同じ「やべっ」を聞いたから。
帰る道中、ずっと気持ち悪く感じる唇をゴシゴシ
家の前に着いたら太陽に「泊まるか?」って聞かれたけど、唇擦るのに忙しいから首だけ横に振って家に帰った。
家に入るあたしに、
「向日葵、気にすんな! 俺だっていつもパクついてんだから!」
太陽はとうとう気の所為でも夢でも幻でもないと白状した。
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