不可能を可能にする男


 幼馴染の太陽は、格好良くて優しくて、基本的にはいい奴なんだ。



 心優しい奴なんだ。



 そう分かってる。



 重々承知してる。



 十数年来の付き合いで、ちゃんと理解はしてやってる。



 けど、



「合コン行きてぇ」


 ……そういう不可能な事を口にするのは止めて。



「……」


「……」


 金曜日の昼休みの中庭で、



「……」


「……」


 思わず卵焼きを落としてしまいそうになった。



“一緒にお弁当を作る日”には、中庭でお弁当を食べるのが日課になって、先に食べ終えた太陽はご機嫌って感じであたしを見てくる。



「……」


「……」


 だけどそんなにキラキラした瞳で見られたところで、



「……行けば?」


 あたしに言える事はそれくらいしかない。



 なのに太陽は、“合コン”ってものをどういうものだと思ってるのか、



「向日葵と一緒に!」


 とんでもない事を提案してくる。



 そもそも合コンなんていうものは、男と女が出会いを求めてするもの……だとあたしは思ってて、どうして太陽がこんな事言い出したのかさっぱり分からない。



 どう考えても“合コン”ってものは、太陽がいつも言ってくる“カップルの暗黙のルール”とは違う気がする。



 そんなものが暗黙のルールだなんて事絶対にあり得ない。



 だから。



「あたし行かない」


 いつものように「絶対ないって言い切れるか?」と聞かれても、「言い切れる」と言える自信があるあたしは、ばっさりと太陽の提案を切り捨てた。



 ……のに。



「本当にそれでいいのか?」


 太陽はまさかの揺さぶりを掛けてくる。



「それでいいのかってどういう事!?」


「合コンだぞ?」


「分かってるよ?」


「よ~く考えてみ?」


「うん?」


「女が怖い俺が、この先合コンに行く可能性は無いに等しい」


「うぬ」


「そしてお前が合コンに誘われる可能性も無いに等しい」


「んだと!?」


「諦めろ、それが現実だ」


「そんな事ない! 誘われるもん!」


「誘われた事あるのか?」


「む」


「ないだろ?」


「ある!」


「嘘だろ?」


「……」


「ないだろ?」


「……うぬ」


「いいか。今まで誘われた事が無いって事は、これからも無いって事だ」


「えー!」


「それが現実だ」


「えー!」


「とすると、だ」


「えー!」


「これから俺らは一生、合コンってものを経験出来ないって事だ」


「えぇ!?」


「向日葵。俺らは死ぬまで合コンが出来ないんだぞ」


「えぇぇぇ!?」


「それは嫌だろ?」


「それは嫌だな!」


「どんななのか気になるだろ?」


「気になるな!」


「1回くらい経験してみたいだろ?」


「してみたいな!」


「そうだろう」


「そうだな」


「だから、合コンに行こう」


「どうやって?」


「……」


「そもそも、あたしと太陽が一緒に合コンなんて無理なんじゃないの?」


「……」


「ねぇ、どうやって行くの?」


「うん。そこまでは考えてなかった」


「……」


 ただの希望だけを好き勝手に口に出してみただけらしい太陽の言葉は、この1週間後本当に現実となり、あたしと太陽は“合コン”の席に一緒に参加出来る事になった。

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