第6話「現状打破を目指して」
「お互い、良い関係になりましょう。私が若頭となれば、この町での活動を
黙認しますよ。一億なら手に入る。上手くやればこの金額を上げることも
出来るだろう。交渉すれば良い」
寺坂組の若頭補佐。寺坂組と言えば土御門会の最大派閥だ。今、ここで
起こっている競争は誰が正式に土御門会の若頭という立場になるか。
その為にも大金が掛けられている白椿真姫の存在は必須。如何なる手段を
用いてでも手中に収めなければ。騒動の発端は空席となった若頭の席。
土御門会のナンバー2という権力を欲する男たちが名乗りを上げる。
門脇大貴、真姫の誘拐事件を裏で手を引く人間である。
やはり相手は殺し屋、プロ。雇い主の事は決して口にしない。
「普段なら受けない仕事を何で受けたの?お金?」
「金額もそうだが、そそられたのさ」
憂炎は重要な部分は決して口にしないが、依頼主に関すること以外は
思いのほか簡単に話す。もう一つの依頼に関して、真姫に教える。
神野組の構成員の抹殺。名の知れた幹部を殺すように依頼を受けているのだ。
それをして得をするのは間違いなく神野組を目の敵にする組織だ。
手に取るように分かる。なので真姫は何も聞かない。聞いても答えないだろうけど。
「依頼主は弱小だの、甘ちゃんだの好き勝手言ってるが、そりゃあ奴らの事を
何も知らない奴が言える話さ」
殺し屋。妙な拘りがあるようだ。こんな裏社会で生きている以上、常人では理解
出来ないイカれた思考回路をしている人間がいるのは仕方ない。
「お陰様で名前が知れ渡っちまってね。最近の趣味は、猛者の首狩りってところか」
「つまり、神野組の幹部の人たちに喧嘩を売りに来た…」
「調べてある。お嬢さん、アンタの兄貴たち、表社会で結構有名な格闘家
らしいじゃん?何で離れたか知らねえけど、幾つか試合を拝見させて貰った。
他の幹部の強さも、調査済み」
不気味な笑みを浮かべて、真姫に言い放つ。
「俺たちとアンタの兄貴たち、どっちが強いんだろうなぁ?」
会合にて、多くの組長たちが集う。現会長は五代目である。五代目土御門会
会長、
話を振った。寺坂組組長、寺坂譲司。
「中国マフィアと繋がりがあるようだな」
「勘違いしてくださるな、会長。これも全て土御門会をより強くするため」
他国のマフィアともつながり、取引をする。互いにwinwinの関係を築き、
長く関係を続けることが重要なのだ。当たり障りのない、純粋に組を思っての
行動に感じる。ただ一人だけが彼の腹の底を探ろうと警戒していた。
その視線を警戒ではなく嫉妬と勘違いした譲司は煽る。
「どうされたかな、神野組長。貴殿もやってみたらどうだ?とはいえ、極道が
何たるかを知らないような若造の寄せ集めでは出来ないか」
神野組以外は二代目以降にずっと気に入られているような組織だ。初代は
極道とヤクザにハッキリ分別を付けていた。カタギに迷惑を掛けるな、暴力と金で
人を詰めるな、そんな初代の考えは気付けば真逆になって次代へ引き継がれていた。
神野組だけが原点を継いでいる。
「それにしても、我々にも話してくれないのですかね」
「何を、だ」
会長へ話を振る譲司。
「―龍の宝、そう呼ばれ会長だけに継がれる秘密」
人の事を継承し続けている様だ。今代で五代目。先代から継がれた秘密。龍の王女
とは先代の妻の事では無いか、または隠し子がいるのではないか、憶測が飛び交っている。その秘密を暴いて会長に取り入ろうと考える輩もいるだろう。
たった一つだけ、神野真一の耳に入っている情報屋の話がある。
『真姫ちゃんは土御門会の秘密を抱えている様だ。あまり彼女の事は無闇に
話さない方が良い』
情報屋が言っていた真姫が抱えている秘密とは、十中八九譲司が口にした
龍の宝という秘密の事だろう。
不穏な空気が流れながらも会合が終了し、大量の着信に気付いた。
「どうした」
『大変です、親父!真姫ちゃんが―』
一先ず組員たちを総動員して真姫の保護に向けて動いている。情報屋からの
情報提供もあり、難航しているわけでは無いようだ。
「おやおや、どうされましたかな神野さん」
神野組は最大派閥である寺坂組と非常に仲が悪い。真一は寺坂組組長の
寺坂譲司を毛嫌いしているが、態度に出さぬよう気を遣っている。嫌いとはいえ
同じ組織の直系なのだ。
「このままいけば私が会長の座に就くでしょうな。となれば、最初にするべきは
無駄を切り捨てる事。ヤクザたるもの、舐められたら終わりですよ」
「そうですか」
「覚えておくと良い。アンタたちが残っているのは今の会長の善意によるもの。
土御門のお荷物なんだよ、テメェ等は」
車で行けば港へ、ニ十分ほどで到着する。これが最短のはずだが組長不在の中、
組を統治している男は頷かない。遊馬 一。
「日時を考えてみろ。港では祭りが開かれてんだ。混雑するぞ。最短ルートは
通行止めになっている。目的地へ向かうには最も遠くなる迂回ルートを
通らなければならない」
「…」
通常ニ十分で迎える場所へ、最短距離で向かうべき。
「走るか」
「…はぁ!?」
普通なら思いつかないし、思いついても口にしないはずだ。車でニ十分、徒歩では
倍以上は掛かるはずだ。それだけの距離を走るなんて出来るのか?
「最悪、俺一人でも走れば良い。聖真はどうする」
「昴の速度に追いつけるかどうか自信はありません」
「待て、走り切る自信はあるってのか」
一は目を丸くする。
「イカれてる、否、頭おかしい…!」
「走るって言っても、出店と人でごった返してるんだろ?余計に時間が
掛かるんじゃねえか?」
鹿野悠斗は常人では出来ないような事をまるで可能であるかのように話す
兄弟を怪物のように思った。明神麟太郎は時間について指摘する。
「いや、目的地までのルートは幾つかあるんだが、次いで最短ルートなのが
自動車が通れない道なんだよ」
神農篤は地図を広げて、ルートをペンでなぞる。なぞられたその道こそが
車では通れないゆえに現状、最も早く真姫を救出できる道なのだ。
「だが、持つか?」
全員の視線が昴と聖真に集中する。
「舐められては困るな。長距離で最も大事なのは、速度じゃねえよ。如何に速度を
落とさず長く走れるか、だ」
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