国王と姫の話



「お父様!私プロポーズされましたわ!」



 私は、家族で食事をとっている時に、それも専属のシェフが作ったこだわりのスープを口に含んだ瞬間、いきなり娘から衝撃的な事を言われて、スープを吹き出しかけたこの国の王である。



「お父様!聞いてますの!?」



 アンよ。君の父親は吹き出しはしなかったものの、スープでむせてるのだよ。



「して、アンよ。君にプロポーズしたのは何処の誰なんだい?君の周りに、それらしい男は居なかったようだが?」



 プロポーズされたって?アンには学園でそれらしい男は居ないとの報告を受けていた筈だ。

 そうでなければ、これだけ口酸っぱく早く婚約者を見つけろ。などと言ってはいない。

 まぁ、ストーカーらしき男は居るみたいだが、それはボンクラで話題の公爵子息だからノーカンだ。



「父上。姉様が休日の習い事などを休ませて欲しいと言ったのは覚えておいでですか?」



 ここでエドからのフォローか。アンは中々口下手だからな。

 ふむ。確か去年辺りにアンからそのように言われたな。

 休日の分を平日にやるという条件で許可を出したんだったか。



「姉上は空いた休日にデートを重ねてたんですよ。それも自分の護衛達には秘密にしておくように言って。因みに僕は既に一度お会いしていますよ」



 む。既にエドは会っているのか。エドがその男について私に報告が無いと言うことは、アンを任せても大丈夫とエドが判断したのだろう。



「お父様には今迄の仕返しの為に内緒にしていたの」



 せめてプロポーズされる前に調べたりしたかったんだがな。エドも会っているなら、既にエドが調べておいてあるか。



「して、その相手とはどのような男なのだ?学園で出会ったのか?」



 自分で言っておいてその線は薄いと思うがな。



「去年位に、お父様と喧嘩して、家出した時に出会ったのよ。あの…暴漢に襲われたって時に、彼に助けて貰ったのよ」



 そうだ。確か半年程前にエドから、その話があったな。あの時は姫の自覚が足りないと、キツめに怒ったからな。それで言い辛そうにしているのだろう。

 それに、娘を助けてくれたらしい青年に王様ポイント1進呈だ。



「彼、エルは男爵子息なんだけどね。学園では戦闘実技は1番なんだって。

でも、未だに私が姫だって伝えてないのよね。エルはまだ私の本当の顔をしらないのよ」



 どういう事だ?まさか休日を空けてデートに行くのに、わざわざ変装してる訳ではなかろう?



「姉上は自分が姫だとバレて、エル様によそよそしくされるのが嫌だったみたいで、知り合ってからずっと変装してますよ。因みに、僕があった時にも変装してました」



 ふむ。判らないでもないか。流石に男爵と姫だと身分に差が有りすぎるからな。



「それで、お父様にも彼に会う時には変装して平民の振りをして欲しいの。エルにネタバラシするのは、卒業の時のパーティーにしようと思うのよ。その方がきっと楽しいと思うの」



 本当にこの娘は昔からじゃじゃ馬だな。今でこそ外面は良くなったが、家出したりと行動力があるからな。



「判った。色々当たって家なども用意しとく」



 そういう私も、楽しい事は大好きなんだ。アンはやっぱり私の娘なんだって事で、まだ見ぬ娘の婚約者を思いながらすっかり冷めたスープを飲む私であった。

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