とある男爵子息の結婚までの道程
@yuta1123
とある男爵貴族の結婚までの道程
僕こと、エルフォンス・ダナンは男爵貴族の中でも貧乏だ。
だが、この学園を卒業と同時に、今は父親が治めているちっぽけな領地を引き継ぎ、僕の大切な婚約者と共に温かい幸せな家庭を築いていく。
そんな未来が確定していた筈だった。
今、僕の目の前には、社交界で自分の家族としか今までダンスを踊ってこなかった、この国のお姫様。アンネリーゼ・フォン・リーディアス様が。
この学園最後の社交ダンスパーティー(今年度卒業予定者強制)で、一切会話もしたことがない僕の前で、面識もない筈(お姫様は遥か雲の上の存在)の僕に、ダンスに誘っているのか少しも解らないので、僕は不敬だなぁ。と、思いつつ、現実逃避して大切な婚約者との出会いを思い出そうと思う。
この国では、貴族だろうが平民だろうが、恋愛結婚が推奨されている。
なんでも、何代か前の王様が、自分の好きな人と結婚するために、国の法律を変えてしまったんだそうな。
僕が通うこの学園は、そんな貴族達が、出会いを求めて集う、集団お見合い的な意味合いの学園である。
お金を出せば平民でも入れるこの学園は玉の輿を狙う男女にはもってこい。と言うわけで。
他の位の低い貴族達は、皆こぞってワンランク上、ツーランク上の貴族達にアピールするんですよ。
基本的に、学園内では爵位よる上下関係は無し!皆仲良くしようぜ!が、売りなんだけど、そこは貴族社会。やはりなんだかんだ上下関係はあります。非常に面倒臭い。
いくら恋愛結婚が推奨されてるからって、それなりに政略結婚が有るのは御愛嬌。
この国の良い所は、王族が政略結婚なんてしませんよー。って公言してる事だね。
同い年のお姫様も学園に通ってるんだけど、公爵子息と恋仲らしいよ。
とまぁ、そんな学園生活も残り1年、未だに僕は婚約者を見つけておりません。
多少戦闘実技に自信があろうとも、僕はしがない男爵子息(男爵貴族の序列は下から数えた方が早い)
まぁ、モテません。こんな僕でもいいよって言ってくれる人は今のところ皆無なのが現状。
それでもめげずに、将来のお嫁さんの為に毎週の休日には城下街に出て、市場調査に出ている時だった。
僕がこの作物は今、値上がりしそうだの、どの魔獣の素材が熱いだの調べていると、なんだか路地裏にいかにも!っていうようなガラの悪いお兄さん達がやんややんや騒がしくて、ひょっこり覗いてみたらあら大変、可愛らしい女の子が絡まれているではありませんか。
「おら姉ちゃん。この路地裏で1人で歩いてきて、わざわざ俺にぶつかってくるって事は、俺の事誘ってるんだろう?」
「違うわよ!ちょっと道に迷って貴方に道を聞こうとしたら誰かに足を引っ掛けられて転びそうになっただけよ!」
はい。この国の路地裏ではよくある話って訳ね。まぁ、このまま放置ってのも目覚めが悪いし助けますか。
ってな感じで助けましたよ。え?戦闘描写?言ったでしょ?戦闘実技には自信があるって。ゴロツキ達は皆ワンパンですよワンパン。そんなん説明しても楽しくないでしょ?
そんなこんなで女の子、アンを助けた訳で、予想以上に可愛かった訳で、下心満載で次の休日にも会う事をこぎ着けた訳で、なし崩しで毎週デートしている訳で。
デートをするようになって半年位のある日に、アンに弟と会って欲しいと言われて、アンの弟、エドと会って、エドにアンとの出会いを聞かれ、暴漢に襲われてる所を助けたんだよーって正直に話したら、何故かアンはめっちゃ焦ってるし、エドは怒ってるし。
アンは家族に心配かけないように秘密にしてたんだね。ごめんよ。無駄にさせちゃったみたいだ。
そうそう。この頃に僕って実は貴族なんだってアンに話したんだった。勿論、学園にも通っていて、戦闘実技は1番なんだよってアピールは忘れずに。
何故だかアンに、お姫様の事はどう思ってるのか聞かれたけど、お姫様にはもう恋人がいるらしいよ。
って言ったら、またそれについて聞かれて、公爵子息が自分とお姫様は相思相愛だから、他の男は近付くなって言われたんだよ。って話したらなんだか顔を赤くして怒ってたっけ。なんでだろ?
学園の卒業まで後2週間、最後の社交パーティーの前に、僕はアンにプロポーズをした。
僕が、領地を出る前に僕の魔力を全て注ぎ込んだ一級品の指輪をアンに渡して、「僕と結婚してください。僕の家の領地は小さいし、危険な事も多いけど、僕が絶対にアンの事を守るし、幸せにします」って。
アンは泣きながらオッケーくれたんだ。僕も泣きそうになったけど、男だから泣かないで頑張ったよ。
その日の内にアンの両親に挨拶に行きたかったんだけど、なんだか予定が合わなくって、次の休日にアンの両親に会ったんだ。
優しそうだけど、厳しくもありそうなアンの両親になんとか結婚を許して貰ったっけ。あ、印象に残ってるお義父さんからの質問があったな。
「君は身分の差の事をどう思う?」
アンが平民だからって、大切な人には変わりないし、それにごちゃごちゃ言うやつがいたら物理的に黙って貰いますよって言ったらなんだか良くわからない顔してたなぁ。
んで、最後のパーティーに出て、早く終わらないかなぁ。なんて思いながら無駄に豪勢な料理をパクついてたら、なぜだかお姫様が近くに寄ってきて……
「ダナン様、私と踊って下さいませんか?」
と言われて冒頭に戻る。
「申し訳ありません。不敬を承知で申し上げます。姫殿下、私には心に決めた婚約者がいるのです。ですので、私は姫殿下と踊ることは出来ません」
アンとは別の女の子と踊るとかアンに対する裏切りだからなぁ。上に取り入るのが上手な人だったら、気兼ねなく踊るのだろうけども、僕はそんなに器用じゃないし。
「そうですか。では、これを見ても私と踊らないと言うのね?エル?」
エル?どうしてお姫様が僕の名前を愛称で呼ぶのだろう?全く仲良くないよね?
お姫様がおもむろに履いていたレースの手袋を脱ぐと、僕がアンに渡した、この世に1つしか存在しない筈の指輪がお姫様の左手の薬指にはまっているではありませんか。
えー?なんでお姫様がその指輪着けてるのさ。まさか僕の魔力で作った指輪をアンから奪ったんじゃないだろうね?
「ほら。早く踊りましょう?アンの愛しの旦那様?」
すっとぼけるのはこの辺迄にして、実はアンがお姫様だったって事実を認めるしかない。
諦めてアンとダンスを踊りましたよ。やっぱりお姫様は自分の家族としかダンス踊らないんだなぁ。なんて思いながら。
これが僕の結婚までの道程。卒業した後に、公爵子息と決闘もどきをしたんだけど、それは別のお話。
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