好きな君に

秋名

短編小説

「好き」で終わる。

私の初恋はそんな結末がよかったな。

下校中幼馴染の隣を歩きながら思う。

「暇だから質問してもいい?」

「うん?」

急すぎて疑問形になってしまう。

「なんで髪短くしたの?」

少し風が吹く。

夏の風は一瞬だ。

「似合わない?」

苦笑いしながら言うと

「そんなことない。可愛いよ?気になっただけ」

笑顔で「可愛い」なんて言われたら。

顔が熱くなってくる前にさっき言われたら質問に答えよう。

「最近暑いから」

君とお揃いにしたかったから。

「なるほど?」

腑に落ちない顔で私を見つめてくる。

「俺に憧れたんじゃないんだ」

「誰が憧れるかよ」

「うわぁ」

憧れてる訳ではない。

男の子よりかっこよくて親切でどんな人にも平等な君に私は惹かれた。

いつの間にか惹かれていた。

私の初恋の人。

叶うことのない恋。

「んじゃもう一個。いい?」

同じ歩幅で歩きながら。

下校中いつも通る公園の横の木が騒がしい。

「ええよ」

「好きな人できた?」

心臓の音が妙にうるさく聞こえる。

「できてないよ」

いるよ。

「いると思ったぁ」

「いたら言ってるって」

噓だけど。心の中で呟く。

「そっちは彼氏とどーなん」

「なんにも?」

「そっか。」

君の彼氏みたいに「好き」って言えたらな。

なんて、もう遅いんだけど。

公園の横を過ぎて横断歩道の信号が青になるのを待つ。

いつまでも引きずってちゃだめだよね。

迷惑なのは分かってる。

君が私に特別な感情を持ってないことも、彼氏の事が付き合う前から好きだったことも。二人を合わせたのは私だ。後悔はない。

でも、私は

「好きだよ」信号が青になった時、一言君の耳に囁いた。

「なになに?」

聞こえていなかったのか聞き間違いと思いたいのか。

どちらにしても「好きだよ」で終わらなさそうだ。

横断歩道を先に歩き出しながら振り返って

「なんでもない」

笑顔で言葉を吐き捨てた。

この一言で私の恋は終わりそうだ。


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好きな君に 秋名 @akibayoru

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