チャプター7:「一線を越える」
時間は少し遡る。
そして場所は、先に吹き飛ばされ転覆した、73式大型トラックの位置する場所へ。
真っ逆さまにひっくり返り、無残にも大破した大型トラック。――その天井が潰れたキャビン部の、運転席側ドアが内側より蹴破られた。
「――……っぉ……の、野郎……!」
そこから悪態を零しながら這い出てきたのは、なかなかの体躯を持つ、快活そうな一人の人物。輸送科の隊員で、大型トラックのハンドルを預かっていた、顎一等陸士だ。
大型トラックこそ大破し原型をとどめない程の姿になってしまったが、操縦を担っていた彼自身は、奇跡的にも致命傷な無く五体満足であった。
なんとかキャビン運転席から外へと這い出た顎。彼は自身の身体に続いて、車内に備えていた自衛火器の小銃を引っ張り出して手元に寄せる。
それから隣り合う大型トラックの荷台部分まで、わずか数歩分の距離を、しかし痛む体に苛まれつつ、難儀しながら身をずらして移動。
「策頼……出蔵……生きてるかッ?返事しろッ」
そして、地面と荷台の間にできたわずかな隙間を見つけ、そこにむけて呼びかける言葉を発した。呼びかける相手は、トラックの荷台に同乗していた、策頼と出蔵。
「――……生きて、ます……ッ」
顎の呼びかけに、一瞬の間をおいて返答が返って来た。返されたそれは、弱々しく少し苦悶の色が見える、女の声。
「出蔵か?」
顎はその声の主の正体を察して発し、同時に姿勢を変え、隙間から転覆した荷台の下を覗き込む。
荷台の下には予想道理、衛生科所属の女隊員、出蔵の姿があった。
発見した出蔵は、その小柄を地面に突っ伏し、うつ伏せの姿勢になっている。そして可愛らしいその顔に、苦悶の色を浮かべていた。
「どうなってる、大丈夫か?策頼も無事か?」
状況がまだ掌握し切れず、矢継ぎ早に尋ねる言葉を紡ぐ顎。
「策頼さんは、無事です。ただ……ゴメンなさい、わたしが……ッ」
それに引き続きの苦し気な表情で、回答の言葉を返す出蔵。
顎が少し目を凝らせば、転覆した荷台下。出蔵のさらに奥側に、策頼の大きな体躯が確認できた。限られた窮屈な空間で片膝を着く姿勢を取り、そしてしかし、そんな事は構わないと言った様子で、その手に持ったエンピで足元を突き掻いている。
「出蔵が脚を挟まれて、脱出できない」
そして動作の片手間に、その策頼から完結明瞭な状況説明の言葉が寄こされる。
よくよく観察すれば、出蔵の片脚は積載していた補給物資に挟まれ、彼女の身動きを阻害していた。
策頼はこれに対して、出蔵の足元の地面を掘り崩し、彼女を救い出そうと試みていたのだ。
「ッ、マジか……っ」
顎は死亡した者が居なかった事に安堵するが、同時に厄介なその状況に顔を苦く染める。
「外はどうなってる?教えてほしい」
そんな顎に向けて策頼は、エンピを動かし続けながらも、要請の言葉を寄こした。
「待ってくれ――」
それを受け、顎はまず返答。そしてどうにか少し回復した体を起こし立って、トラックのキャビン側へと戻る。そこから慎重に視線を覗かせ、先を観測する。
「――東北、丘の上で戦車が一輛炎上中。傍に装甲車と随伴歩兵、そいつも燃えてる戦車に気取られてるようだ」
顎はまず真っ先に、丘の上で炎上する戦車と、その周りの敵一隊を視認。それを言葉にして策頼等に伝える。
「あれは制刻予勤等がやったか?」
それが制刻等の成したものである事を推察しつつ、顎は別方へ視線を走らせる。
「――後ろの丘の頭頂部に偵察車、他所を向いてる。――後は、確認できない……」
一帯を一度ぐるりと見渡し、状況情報の取得を試みる顎。
しかし周辺はそそり立つ丘で阻害されている箇所が大半で、低い場にいる顎から確認できるものは、あまり多くは無かった。
「そっちは?出蔵を引っ張り出すのにかかるか?」
「慎重にやる必要がある、少しかかる。数分欲しい」
一度視線を外して、荷台の隙間に向けて尋ねる声を送る顎。荷台の下からは策頼の声で、状況を端的に伝える声が返ってくる。
「了解。今の所こっちを狙って来る敵はいない。その間に……――!」
答え、続く返事を返そうとした顎。しかし直後、彼の五感はその気配と微かな物音を捉えた。
顎はキャビンに身を隠しながら、再び視線を出して先の様子を伺う。
「ッ!」
そして見えたものに、その顔に苦い色を浮かべる。
東北、炎上する戦車のある方向。その戦車を取り巻いていたはずの、敵の装甲車一両と歩兵分隊。それが、隊伍を組んでこちらへと向かってきていた。
「まずい、戦車を囲ってた連中がこっちに来るッ」
目にしたその光景を、言葉にして発し上げる顎。
「ッ――策頼、できるだけ急げ!俺の方でなんとか足止めする!」
顎は続けて要請と、自身の行動を告げる。こちらへ迫る敵一隊に向けて牽制射撃を行い、延滞行動に努める腹積もりだ。
控えていた小銃を寄せて身構え直し、そして行動を開始しようとした顎。
「――ッ!?」
しかし――その顎は直後。自身の背後頭上に気配と、そして殺気を感じ取った。
身を翻し、振り向き見上げる顎。
その視線の先。転覆した大型トラックの上に見えたのは、一体の人影。顔以外の全身を覆う妙なスーツに身を包み、屈む姿勢で、こちらを見下ろす一人の女。
「ッ――」
その姿から、間違いなく味方ではない。襲い来た謎の戦車隊の一人――敵。
顎はそれを瞬時に判断。そして、腕中の小銃を構え上げて、その女を狙おうとした――
パンッ――と乾いた音が、しかしその前に響き。
同時に顎の身を、妙な衝撃が襲った。
「――?」
顎は妙な感覚を覚える。視界が半分欠け、左目に違和感がある。
それもそのはずだ。彼の左目眼孔は――大穴が開いて潰され、赤黒い頭の内部が覗き見えていたのだから。
「――ッ゛――」
その顎をさらに襲ったのは、連続する身を打つような激しい衝撃。
それはまごうこと無き銃撃。
二発、三発、四発と間髪入れずに襲い来たそれが、顎の身を打ち。その身に、胸を始め各所に生々しい銃創を作る。
そしてついに顎はその身から力を失い、崩れ落ち、地面にその身体を沈めた。
即死――彼の命が失われたのは、ほぼ一瞬の内であった――
「ほい、一体ダウンっ」
亡骸と成り代わった顎の身体。
その頭上。大型トラックの上から、何かやる気のない、軽薄なまでの声が降りて来る。
声の主は、先に顎が見た妙なスーツの女。
「やらしいコトするヤツは、倒しとかないとねー」
正確には少女と言った風体の女は、何かやる気のない眠そうな眼と口調で、眼下を見下ろしている。そしてその両手にそれぞれ握られるは、二丁の拳銃。いずれも銃口からは白い煙がうっすらと上がっている。
顎を撃ち亡骸と変えたのは、この女であった。
「おっ?」
その眠そうな眼の女が、その耳に音と気配を捉える。
振り返れば、一輛の装甲兵員輸送車と歩兵分隊が、ちょうど大型トラックの元へと問い着した姿が見えた。
「展開、警戒隊形!」
歩兵分隊の中の、指揮官らしき女が腕を振るい、声を張り上げる。
それに従い、装甲車は適当な位置に停車。10名程の歩兵達は、3人ないし4人一組のチームで、周辺へと散り展開して行く。
歩兵達も、装甲車の乗員も、一人の残らず全員女。そして揃ってその身には、体を覆うスーツ――皇国陸軍の装備である『07式特殊防御装甲』を纏っている。
すなわち女達も皆、恋華率いる『偵察騎兵隊』の所属である事を示していた。分隊はそのコールサインを『フルメタルス』と言った。
「――
女達が展開に走る中、先の指揮官らしき気の強そうな女がトラックに駆け寄ってくる。指揮官の女は、トラック上の眠そうな眼の少女を蒼菜と呼び、そして叱る声を発して上げた。
「そんな怒んないでよ
一方、蒼菜と呼ばれた少女は、悪びれない様子で指揮官に返す。そしてポニーテールに結った髪を揺らし、まるで猫のような動きでするりとトラック上から飛び降りた。
「なんかそっちを狙ってたし、危なかったとおもうけどなー」
そして勇深という指揮官の女の隣に立ち、それから地面に沈んだ、物言わぬ姿となった顎の身体を見下ろす。
「――はぁ。まぁ、確かにそれは助かったよ」
蒼菜の気の抜けた声色でのその言葉に、勇深はあきれた色を顔に浮かべて小さくため息を吐きながらも、同時に礼の言葉を紡いだ。
「あらあら。最初のネズミちゃんは、子猫ちゃんに持ってかれちゃったわねぇ」
そんな会話を交わす二人の元へ、背後よりまた別の艶めかしい声が割り入る。
二人が振り返れば、そこには金髪が目立つ妖艶な美女。戦車、ミニ・ウィドウの戦車長である凛音の立つ姿があった。その背後では凛音の身を護るように、同じくミニ・ウィドウの搭乗員であった少女達が、周りを固め周囲を見張っている。いずれも格好は、分隊の女達と同じく07式特殊防御装甲を纏った姿。
凛音達は不意を突かれた対戦車攻撃に見舞われ、自分達の戦車を失ってしまったが、しかし奇跡的にも自分達は致命傷を負わずに生存。勇深率いるフルメタルスに助けられ回収され、今は行動を共にしているのであった。
「曹長」
歩み寄って来た凛音に、勇深は凛音を階級で呼んで返す。
「こいつが、曹長の戦車を狙ったヤツなんでしょうか?」
そして、顎の亡骸を冷たい目で見下ろしながら、凛音に尋ねる言葉を紡ぐ。
「どうかしらぁ?レディアイの子猫ちゃん達からは、ネズミちゃんのおいたは丘の上から見えたと聞いているわぁ」
勇深の言葉に、しかし凛音は同様に顎の亡骸を眺めつつ、否定の言葉を返す。
凛音達には、背後で監視に付く偵察車より、対戦車攻撃は側面の丘の上からあったという情報がもたらされていた。
凛音達を回収した勇深達分隊は、再度破壊したトラック調査に。合わせて、対戦車攻撃を仕掛けて来た敵への対応に赴いたのであった。
「レディアイは今も側面を睨んでいる、その中で丘を下っての移動は無理……別の者か?」
それから両者は、すでに興味が無いとでも言うように顎の身体から目を離す。
「別に居たとして、最初のおいた以降音沙汰がないのが気になるのよねぇ」
「味方を置いて逃げ去ったか……?」
そして凛音や勇深は、敵の行動や所在を予測推察する言葉を交わしあう。
――唐突に爆発音が響き。彼女達、そして大型トラックの少し先で、爆煙が上がり爆風が巻き起こったのは、その瞬間であった。
「ッ!」
「とっとぉ?」
一瞬身を竦ませる、勇深始め女分隊員達。
蒼菜だけ変わらぬ気の抜けた声を上げるが、しかし彼女達は直後には共通の動きを見せる。女達は皆、飛ぶような速さで身を動かし、直後には随伴の装甲兵員輸送車や、トラックの残骸の後ろへとその身を隠した。
「あややー、まだいるねぇ」
「――誰か!見た者はいるか!?」
トラックの背後へと身を隠し、背を預ける蒼菜と勇深。
蒼菜はまた緊張感の無いそんな声を上げ、一方の勇深は分隊各員に報告を求める声を上げる。
「南側、側方の丘!わずかですが人影を見ました、微かな煙も見えます!」
求める声に、分隊員の一人から報告の声が返される。
同時に、装甲兵員輸送車の重機関銃が、側面の丘の上に向けて発砲を開始。さらに背後で監視に着く偵察車からも、機関砲が撃ち込まれ始めた。
「了解!シュガーウルフはそのまま牽制射撃を!――くっ!」
勇深は返答を、そして装甲車への指示の声を飛ばし。それからトラックの影より、攻撃の来た丘の上を覗き睨む。
「あらあらふふふ。いけない悪戯ネズミちゃんは、まだかくれんぼ中みたいねぇ」
一方。同じくトラックの影で背を預ける凛音は、妖しい笑みを浮かべながら、己の自衛火器である機関けん銃を確かめている。
「勇深ちゃん。ネズミちゃんに側面を取られたままの状況は、良くないし面白くないわぁ。隊長達が向こうのネズミちゃん達にオシオキをしてる最中だし、それの邪魔もさせられない」
凛音は勇深に向けて言葉を紡ぐ。それは、自分達で側面の丘に陣取る敵へ、対応する事を促す物。
「なにより……あたし達のお尻におイタしようとした、いけないネズミちゃんには――とびっきりのオシオキをしてあげなくちゃ」
そして、その端麗で妖艶な顔に、背筋が凍るほどの妖しい微笑を浮かべて。凛音は勇深に、そして周りの各員に向けて紡いで見せた。
「――フ。私も、同じ考えですよ」
それに対して、勇深も不敵な笑みを浮かべて返す。
大切な仲間を危機に陥れられ、怒りを抱いていたのは彼女も同じであった。
「皆、聞いていたな?私達は、小隊の側面を脅かす敵の排除に掛かる」
勇深は、分隊員達にむけてこれより発し上げる。
「分散し、丘の向こうまで突撃する。私とフルメタルス1は左手へ、フルメタルス2は中央、シュガーウルフは2を随伴援護。煩わしい小手は使わない、短期決着を狙う!」
作戦概要を、そして分担を分隊の各チームに告げる勇深。
「曹長。曹長達も、ここに残られる気はないですよね?」
「当然。戦車を操るだけがあたし達じゃないのよぉ?凛音さん達の、華麗な突撃を見せてあげる」
続けて勇深は、すこし揶揄うような声で凛音にそんな言葉を飛ばす。それに対して、凛音は妖艶な笑みで答える。
「失礼を。では、曹長達には右手側をお願いしたく思います」
それに笑みで返し、託す言葉を紡ぐ勇深。
「レディアイ、射撃中止を。私達はこれより、側面の丘に向けて突撃、潜む敵を排除する――みんな、準備はいいか!」
そして後方の偵察車に要請の言葉を送り、それから勇深は、分隊全員に向けて発し上げた。
「はい!」
「オッケー!」
「任せて!」
ハツラツとした犬のような少女隊員。眼鏡を掛けたデータ要員の少女隊員。長身で筋肉を蓄えた女隊員、等々。分隊の個性豊かな少女達からは、やる気に溢れた声が返ってくる。
「勇深が突っ込んでいったら、それだけで敵は悲鳴を上げて逃げちゃうかもねー」
その直後、勇深の隣の蒼菜から、そんな揶揄う声が上がる。
「んな!?」
その言葉に、勇深は素っ頓狂な声を上げる。
「あはは、確かに」
「戦ってる時の一曹のおっかなさは、鬼みたいだもんねー」
そんな勇深をよそに、分隊員の少女達からは、同調して揶揄い賑やかす声が上がる。
「あらあら、あたし達のおしおきが霞んじゃいそうね」
さらに凛音も、くすくすと揶揄う言葉を寄こす。
「お前達ぃ……!」
「機嫌悪くしないでよ。そんだけ、勇深を頼もしく思ってるんだからさ」
顔を赤くして怒る勇深に、蒼菜は宥める言葉を掛ける。
「まったく……いいさ。ならお望み通り、果敢な戦いを見せてやるさ。ただし、みんなも私にしっかり着いてこい!」
その一言に、一度和んだ空気が、今度は心地よい緊張感のある物に代わる。
分隊の少女達の顔も、凛とした真剣な物へと変わる。
彼女達、分隊の士気は高かった。
「よし、行くぞ――状況開始!」
そして発し上げられた、勇深の指示の声。それを合図に、分隊の少女達は一斉に行動を開始。
それぞれの遮蔽物を飛び出し、突撃行動を開始した。
「――……んく……」
転覆した大型トラックの荷台の隙間。
そこで伏し顔だけを起こしている出蔵は、今はその口を、自分の物では無い大きな手で塞がれていた。出蔵の横には、屈む策頼の身体。出蔵の口を塞ぐ手は彼の物だ。
その出蔵の視線の先。地面と荷台の隙間から見える外部の、目と鼻の先。そこには地面に沈み、纏う迷彩戦闘服を血で染め、命断たれた顎の身体があった。
唐突に響いた発砲音と同時に、身を打ち崩れ落ちた顎。その姿に、出蔵はその時思わず声を発し上げ掛けた。しかし複数の敵性存在の気配接近に気づいた策頼が、出蔵の口を塞いだのだ。
そして案の定、敵の分隊と思しき者達が現れ、先までトラックを取り巻いていた。
その間、沈黙を保ち凌いでいた二人。
しかし唐突に今度は爆音が聞こえ届く。それから敵と思しき者達は、何か作戦と、そしてじゃれ合いと思しき言葉を交わしあったかと思うと、トラックを離れて丘の方へと掛け去っていった。
「……ぷぁっ……」
周囲から自分等以外の気配が無くなった所で、出蔵はようやくその口を解放される。まずは酸素を求める呼吸を、無意識にする出蔵。
「ぁっ……顎さんっ……顎さん!?」
そして堰を切ったように、出蔵は先に見える顎の身体に向けて、呼びかける声を上げ始めた。しかし、その顎から返答が返される事は、最早無かった。
「ぁ……そん、な……」
まざまざと見せつけられた、同胞の最期。それを前に、出蔵はその顔を悲壮で染め上げ、その身を微かに震わせる。
「――行ける」
その一方、出蔵の背後からはそんな一言が零れ聞こえる。
そこには、再びエンピを手にした策頼の姿。
脚を積載物に挟まれた出蔵を救い出すための作業は、あと一息の所まで来ていた。敵の襲来により中断されてしまったが、敵の気配が去ると同時に、策頼は迷わずそれを再開。
そして、出蔵を引っ張り出すのに必要な分だけの地面を、掻き下げ終えたのであった。
「出蔵、動かすぞ」
出蔵と相反して、策頼は冷淡な顔のまま。告げてそして行動に徹している。
「ッぅ……!」
動かされた出蔵の顔に、苦悶の色が走る。
策頼はその出蔵の身体を可能な限り丁寧に移動させ、そしてトラック下の空間の中でも、比較的広い所へ置いて横たわらせた。
「容体は?」
「っ……折れてます、右脚の脛骨骨折です……」
策頼は出蔵自身に容体を尋ねる。
衛生科隊員である出蔵は、自身の身体を自身で診断し、その結果を策頼に告げた。
「応急処置の方法を」
「何か、長い棒で……添え木を……」
策頼は続け、取るべき応急処置の方法を出蔵に尋ねる。出蔵はそれに苦し気ながらも回答説明する。
策頼はまず、出蔵の所持品であった衛生器材用品の入った鞄を、見つけ引き寄せる。そして、半損していたトラック荷台のガードパイプを乱暴に外し取り、それを添え木として応急処置を始めた。
「――顎は、即死か?」
応急処置を進めながらも、策頼は出蔵に問う。
「っ……はい……目を撃たれ、貫通し、即死です……」
「――そうか」
問われたそれに、出蔵はまざまざと見せつけられた先の光景から、覆らない現実を回答する。それに策頼は一瞬だけ微かに顔を変えるが、すぐさま端的に一言だけを返す。
そして策頼は適格な動きで、さして時間も掛からずに応急処置を完了させた。
「出蔵、自由さん等に――各所に顎の事を、そしてこっちの状況を伝えてくれ」
応急処置を終えた策頼は、それから出蔵の身に着けるインカムを示しつつ、彼女にそう促す。
そして自身は、転覆により崩れた積載物を漁り始める。
「策頼さん……?」
「今の爆発は、おそらくウチの誰かだ。敵の注意を引いて、俺等から引きはがしてくれたんだ。――だが、敵は少なくとも小隊規模。向こうもギリギリのはずだ」
出蔵の声に、策頼はそう推察と説明の言葉を紡ぐ。
「――だから俺も行く」
そして、それをもっての自分の行動を告げる策頼。同時に彼は崩れた積載物の内から、使えそうな〝得物〟を引っ張り出した。
「……了解ッ」
それを受け、出蔵は痛みを堪えながら、しかし端的にはっきりと返事を返す。
「――出蔵より、各隊各所へ……応答願います……」
そして、出蔵はインカムを用いて、各所への呼びかけを開始した。
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