第3話
中宮創太は時々、夢を見る。
ある時は天空。
緑と青が綺麗に交わる森林の中、その神聖な気に触れながら、創太はその森林の中を進んでいく。そして行きついた先には。まるで『聖樹』の様な、木というだけでは表現しきれない何かを持ち合わせた神聖な樹木がその姿を遺憾なく発揮する。
創太は本能的にその樹木へと手を伸ばし、そしていつも同じ様に目が覚める。
ある時は満天の星空。
星々がまるでスパンコールの如く光り輝き、その星空が黒色を何色にも染める。だがその黒色が星々を飲み込み光を喰らう。
創太はその星々の光へと手を伸ばし、それでも伸ばした手は届かない。
そしていつも同じように目が覚める。
創太には分かるのだ。
この夢は、自らが宿った力である『創造』の力。その源である【聖樹ユグドラシル】と、『虚無』を司る北欧神話の化け物。【ギンヌンガガプ】によるものだという事を。
中宮創太には、神の力が宿っている。
【ユグドラシル】の力は『創造』
この混沌世界の礎となっている武具『ユグドラシル』の根源たる力を直接扱えるのだ。その力が強大じゃないわけがない。
だが万物は一つで終結しない。始まりがあれば終わりがある。生があれば死があり、白があれば黒がある。そして創造があれば、破壊がある。
【ギンヌンガガプ】の力は『虚無』
ただの無。それは絶対の破壊であり、終わりである。
その力を今、中宮創太は宿しているのだ。
世界の終わりと始まりを司る力を、中宮創太という個人が宿すことに成功したのだ。
◇
「ソウタ。起きて、寝るのは終わり」
「ん。あ~、ん?誰?」
「私、アリア」
アリア。そう名乗った少女の名はアリア・イオ二クス。
イギリスからの留学生で探索者としての腕はピカ一にある。白金の髪に紅の眼を持ち、見る者全てを魅了する容姿をしている。身長は創太よりも少し小さいぐらい。全てに置いて完成している少女。それがアリアだ。
「あ~、アリアか、で?何でここにいんの?」
「私は貴方を呼びに来た」
「え~、誰が?」
「中島先生」
「あ~、やっぱか~…。分かった、起きるよ、今何時間目?」
「三時間目が終わったところ。私は少し遅れても大丈夫だと言われてる」
「あ~、そうかー。じゃあもう授業行った方がいいんじゃないか?俺は一人で行ってるよ」
「無理、貴方が一人になると、又寝る」
「ちっ、バレてたか」
「だから、早くいく」
「はいはい、了解ですよ」
こうして、創太はアリアと共に愛しの屋上から抜け出し、すぐさま職員室へと向かう羽目になるのだった。
◇
ここは職員室。そこに付随している個室には、今創太とアリアと、そして白衣を身にまとった若いながらにも貫禄のある女性教師が、足を組みながら創太に眼力を寄せている。
「はぁ…中宮。お前やっぱりサボってたんだな。全く」
「ええ、まあそうですが」
「ああ、ありがとうアリア。もう戻っていいぞ、話はついてある」
「はい、失礼しました」
「……はぁ、中宮。お前も分かっているだろう?私はお前の監察官だ。それでいて授業に出ていなかったら、私の仕事ぶりが疑われるんだよ。なぁ?分かるよな?なぁ?」
「えー、あーいやーそのー、そ、そうです…ね?」
「そうなんだよ。そう、そうなんだよ。なぁ中宮?お前は私の気持ち。分かるよな?」
「えー、いや、…ハイ。ソウデスネ」
「そうだよな、言いたい事、もう分かるよな?」
「はい…授業に行ってきまーす」
「ああ、物分かりが良くてよろしい。でも、もし授業に出なかったら…どうなるか。分かってるよな?」
「ハ、ハーイ…」
「よろしい。さあ、行きたまえ」
こうして創太は職員室を出て、ため息をつきながらこの先を考える。これもいつも通り。創太はいつも授業をサボり、アリアに注意され、そして中島先生にドヤされる。これもまた中宮創太という男の日常なのだ。そして
(よし、屋上行くか)
これもまた。中宮創太という男の日常である。
◇
そしてまた、創太はいつもの屋上で横へとなり、そして空を見上げては頭を空っぽにする。これしかこの学園で行ってない。だが、今日だけは特別だ。何故なら。
「………誰だ?学園の生徒でもあるまいし、こんな時間に何の用だ?」
創太は気づいていた。何者かが屋上にいる。僅かな気配だが、創太はこれを実戦で感じる気配を身に着けている。そしてその気配に何者かが、少なくとも学園関係者ではない何かが引っ掛かった。という事は
「創太様。私でございます」
こうして現れたのは、黒装束に身を包んだ誰か。一言でその者の外見を表すとするならば、『忍者』という言葉が相応しい。身長は創太よりも明らかに低い。そして声色から女性の声なのだろう。
「ああ、マヤか、どうした。緊急なんだろう?」
「はい。先ほど訪ねてきた者の依頼内容が、第一級のレベルであるという判断がなされました。なので判断を伺いに」
「了解した。それなら仕方がない。勿論、影は掴まれていないな?」
「ええ、抜かりなく。監視カメラ、魔力探知、人の目線にすら引っかかってはおりません」
「了解。依頼内容は………理解した。では俺が帰るまでの間に情報収集のみを行え、その後の判断は俺がする。以上だ」
「了解しました」
「くれぐれも、見つかるなよ」
「心得ております」
こうして、創太からマヤと呼ばれた者は、風の音がする頃には創太の目の前から消え去っていた。
これが創太の持つ秘密の一つ。
創太が、その特異すぎる力を守るために結成された。創太を主として成り立つ魔術結社『澪』。
創太は高校生ながらに、裏の世界の長を務めている。この事がバレたら間違いなく社会から抹殺されるだろう。だが、何もしないままでは創太の力は、まるで物のように扱われる事になる。それを守るための組織。それが『澪』なのだ。
◇
(信頼していないわけではないが、この学園では最高でもELC序列532位。『鳴神』の異名を持つ中島先生が控えてる。くれぐれも、しくじるなよ)
ELC――『探索者協会』の略称であり、『迷宮』へと潜る探索者は皆、この協会へと所属している。それは日本だけではなく。世界中でだ。この混沌社会を迎えるにあたって、世界が作った防衛機構であり対策。それがこの教会だ。
ELCが行ってきたことは数知れない。迷宮の解析。ユグドラシルの性能テスト。その他にも探索者の徹底したサポートなどが主な役割だ。
その中の一つに、探索者一人一人に序列を与え、そのレベルによって仕事の割り振りや個性あふれる迷宮の攻略を制限する機構。『序列機構』が存在する。
現在探索者は全世界で6000万いるかいないかだが、その中でも10万に入ればそれは英雄レベルだ。かろうじて200万でプロレベルだろう。
そしてその中でも532位の実力を誇る中島先生は、その力だけでも一地域の生物を全滅されられるほど強力な物だ。そしてそんな先生が、成り行きとはいえ創太の監察官になっており、そしてそんな化け物が先生として在籍しているこの学園は、探索者学園としてトップレベルな証だろう。
(さあて、久しぶりの第一級依頼だ。まだまだ分からないことは多くあるが…詳しくは今日。帰ってからにしよう。今は取りあえず寝る)
こうして創太はまた、眠りに落ちていく。
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