第2話
世界は、人間という種族は、その性質を大きく変えた。
いや、正確には発見したと言った方が正しいか。
その時。世界に“ある力”が認知されて行ったのだ。
その名は『魔力』
人間に、いや地球に“魔力”などという言葉が認知され、浸透したのは他でもない。
2200年。世界は再誕した。そのきっかけとなったのがアフリカ大陸にて最初に見つかった一つの刀だった。
その刀の周りには衛星写真からでも見えるほどの大きなクレーターが出来ており、その中心に黒く細い、シンプルでいてしなやかな反りを持つ、まるで日本刀の様な棒状のものが地面に刺さっていたと言われている。
そして現地の調査員が触れようとしたその瞬間。
まるで刀が意志を以ているかの如く放電を始め、現地の調査員が重症を負うという事件が発生した。その後も何名か試したが、その黒刀には触れる事すらできないという事実に落ち着いたのだ。だがしかし、今度はオーストラリア大陸で槍状のものが、北アメリカ大陸に盾状のものがクレーターの先に落ちていたと言われている。
そして、その三つを解析した結果。
・未知の物質で出来ている。現在の人類では製造不可能。
・その武器の周りには未知の電磁波やエネルギー体が纏わりついており、人間では耐えられない。
という二つの事実が分かった。
だがここでもう一つ。世界を揺るがす衝撃的な事実が起こる。
アメリカ大陸の盾に遊び半分で触った第一発見者である青年がいたのだが、その青年がなんと持ち上げる事に成功してしまったのだ。
それを受けてオーストラリア大陸にて、希望者や死刑囚を募って槍にさわらせてみた所。
―――なんと全員が触ることに成功した。
更にその武具たちを触った人のほとんどが“人々の周りに白い靄が見えるという言葉から、科学者たちは『触った人間に未知のエネルギーが移ったもしくは知覚できるようになった』という仮説を立てた。そして、その三日後にそれはほぼ立証されることになる。
アフリカ大陸、北アメリカ大陸、オーストラリア大陸のほとんどの人が“白い靄”が見えると病院に駆け込み、大パニックへと陥った。すぐに世界中でこの不思議な現象を解明しようと研究者チームが結成され、急ピッチで研究が進んだ。
そして一年後。世界中の人々が“白い靄が見える”のが当たり前になったその時。さらに一つの大きな変化が起こった。
一年の間に起こった、大小さまざまなクレーターが起こった地点から、謎の穴が出現したのだ。そこには当時で言う“白い靄”が穴の全てを覆っており、調査チームを組んで調査を実行した所。なんとそこからあの刀や槍、盾や銃まで出てきた。
サンプルが増えた事により、その武具たちの研究が大きく進んだ。そして人々はその武具たちの異常性に気付いた。
曰く分かったことは4つ
1.“白い靄”――『魔力』を通すと炎や水などの特殊な、それでこそあり得ない様な能力が操作可能になるという事。
2.武器の性能によって特殊能力が違う事。
3.ほとんどの武器に置いて破壊不能であり、いくら銃弾を浴びせようとも傷一つつかないが、壊するには同じ特殊能力を持つ武器でないと破壊できない。
4.加工できない。
この四つの事が確認済みであり、そしてこの事実は世界を大きく揺るがした。なぜならそれはその魔法の武具たちが多く、質の強い武器がある国が必然的に世界最強になれるわけだからだ。現代社会を根底から崩す。銃などとは比べ物にならない武器の数々だからだ。
そしてこの魔法の武具たちを、北欧神話の“世界を支える樹”『ユグドラシル』と名付けた。その意味は、新しく再誕した世界を支える重要な道具、だから人々はそれをユグドラシルと呼び、今では社会になくてはならない存在へとなっている。
そして今、国は『ユグドラシル』を得るために、その穴――『迷宮』を攻略することのできる人材を育てるために、世界中が切磋琢磨、いや争い合っている…………。
◇
「起立。礼。着席」
いつも通りの日常、いつも通りの日々。
朝のチャイムが鳴り響き、生徒たちはいつも通りにその朝を迎える。
外には二年二組と書かれた看板が吊るされている教室で、多くの高校生たちは一番勝手を知るある意味一番楽しい年ともいえるかもしれないが、それでも何かが劇的に変わるでもないといったいつも通りの日常を生徒たちが過ごすクラスルーム。
だが、ここは普通の高校とは大きく違う、この高校では教養や知識を学ぶためだけの学び矢ではない。今世界の国々が最も求めているもの―――『ユグドラシル』を得る事を生業としている者――探索者<サーチャー>を国が育成するための学園。
その最高峰がこの『国立第一探索者学園』なのだ。
「さてー、今日のHRに伝える事は特にありません。一時間目は『迷宮探索:戦術科』なので、ウェアに着替えて第八ホールにて授業を行うとのことです、それでは、一時間目の準備を始めてください」
――――探索者になり、名誉と栄光を掴む
そのために、生徒たちはこの高校の門を叩き、自らを高めるために教えを乞い、なりふり構わずに強くなろうと努力している。だが、この学園にたった一人。教えを乞わず、嫌々ながらにこの学園に足を運んでいる者がいる。
「あ~、怠い。やっぱここが落ち着くなぁ~」
そこは第一学園の屋上。クラスメイトは皆第八ホールへと我先に向かったが、その生徒だけは別である。
「やっぱ授業なんて面倒な事せずに、ここで怠けるに限る。しばらくはここだな~」
その生徒の名前は中宮創太。
この学園に“特別な事情で入学してきた”生徒であり、それがこの怠けに拍車をかけているのである。最も、ここまでしたら普通は退学モノなのだが、というか本人も退学させてほしいのだが、それが出来ない理由がその“特別な事情”なのだ。
中宮創太。その生徒は“魔力が使えない”のにも関わらず『ユグドラシル』を扱う事の出来る稀有な生徒。
中宮創太――最後の旧人類と呼ばれたその少年は、通常『ユグドラシル』を扱う、又は起動させるためには魔力が必要である。だが、魔力が無い又は容量が少ない人間は決して扱えるはずのない、その理を無視して『ユグドラシル』を起動させ、あまつさえそれを十全に扱って見せたのだ。
その異端ぶりはこのユグドラシル社会においては一目置かれて当然の事象であり、研究対象としての眼を向けられるのも時間の問題だった。
そして研究対象として、かつ人権を尊重するという二つの条件をクリアするためには、学業生活の中でデータサンプルを取っていくという方法が成り立っているわけだ。
最も、本人は嫌々ながらにここに来ており、また家族も最後まで首を縦には降らなかった。それは日本政府の半強制でここに渋々来ている。
こうして様々な事情に絡めとられた創太は、僅かな反抗心と共に屋上にやってくる。そして一人風に吹かれながら、無意味な時間を屋上で過ごしていくのが日課となっていたのだった。
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