第6話 ヴィル 頼む

 俺がヴィルに問いかけると、彼は少し唾を飲み込んでから説明してくれた。


「骸骨霊術師は、死者の魂を操る術を持つ危険な存在だ。それに、強力な霊術を使って攻撃してくる。普通の武器じゃ効かない。しかも浮遊してるから、動きも素早い。俺たちじゃ、まず勝てない相手だ」


「勝てないだと?」


「見た目からしてもわかるだろ?ヤバいんだ、あいつは! 今まで幾多のヤツらがあいつに挑んで、みんなやられたんだよ!」


 俺はヴィルの言葉を聞きながら、じりじりと骸骨霊術師に視線を向ける。確かに見た目はヤバいし、ヴィルの言う通り、普通の攻撃が効くとも思えない。


 骸骨霊術師はカタカタと歯を鳴らしながら、俺たちを見据えた。


「ひっひっひっ、詳しいようだな……それにしても、我を見ても慌てないそこのお前、何者だ?」


 俺は冷静を装い、鼻で笑った。


「今ここで終わるやつに名乗る名前なんて、ないさ」


「おい、零、ふざけるなよ!」ヴィルが震えた声で言う。「こいつ、看守長よりやばいんだぞ! 今なら謝ればまだ……」


 ヴィルの声は焦りを隠せていない。だが、俺は笑みを浮かべたままだった。骸骨霊術師が手を上げると、背後に六つの人魂が現れ、それらが円を描くように漂い始めた。


「久々に人間ごときにバカにされたわ……悲しい、悲しい。本当に涙は出ないが、悲しい」


 その言葉と同時に、人魂が弾丸のように俺たちに向かって飛んできた。


「零、やばい! 完全に怒らせたぞ、怒ってるのかわからない顔してるけど!」


 ヴィルが叫びながら身をかわす。俺も咄嗟に飛び退いたが、人魂の速度は思っていた以上に速い。


「ヴィル、何か策はないのか!?」


「待っていろ、少し時間をくれ」


 俺はヴィルが策を練る時間を稼ぐため、骸骨霊術師の注意を引くことにした。敵の動きを止めなければ、こちらが不利になるのは明白だ。


「おい、スカスカ野郎。そんな貧弱な呪文しか出せないのか? たいしたことねえな、お前。」


 骸骨霊術師の反応は、カタカタと歯を鳴らす音で返ってきた。どうやらイラつくと音を立てる癖があるらしい。骸骨の顔には当然、表情なんてものはないが、その無機質な瞳に微かな怒りが滲んでいる気がした。実にわかりやすいやつだ。


「ほら、もっと本気で来いよ!骨っこ野郎が、やる気ないならこの場でバラバラにしてやるぞ!」


 じわじわと怒りを煽り、時間を引き延ばす。ヴィル、頼むぞ――。


「うるせぇぞ、人間如きが俺様に逆らうなよ!」


 骸骨霊術師の声が、先ほどまでとはまるで別人のように変わった。これが本性だろう。今までのは、ただの演技だったというわけか。


「はん、その喋り方の方がいいぜ。前よりもだいぶマシだな。」


 俺は皮肉とも取れる言葉を投げかけた。褒めているのか貶しているのか、わざと曖昧にしてやる。


 骸骨霊術師はもはや苛立ちを抑えることなく、手をかざして何かしらの方法で炎を作り出した。その炎は転生者や囚人の魂の残滓に付与されると、まるで彼らの苦しみが形を成したように、悲鳴や嘆きがあたりに響き渡る。


「魂を燃やすとは…やり口が陰湿だな。だが、そんな手じゃ俺を止められないぞ!」


 ーヴィル、頼む。

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