第4話 勝利

「おい、零、このままじゃやばいぞ!」


 ヴィルの声が響く。確かに、状況は絶望的だ。だが、俺は逆にこの状況をチャンスだと思った。看守たちは、看守長の登場によって形勢が逆転したと信じ、勝利を確信して気が昂ぶっている。その隙を突けば、看守長を叩きのめし、この牢獄の第一階層から脱出することができる。くそ女神、今に見ていろ。俺は必ずここから出てやる。


 その時、看守長が不気味な笑みを浮かべながら口を開いた。


「看守たちが困っているというから来てみれば……ゴミしかいないではないか」


 その圧倒的な存在感に、看守たちは縮み上がる。しかし、一匹の蜥蜴のような化け物が、震えながら看守長に告げた。


「い、いえ! 違います! 指示をしているのは、そこの囚人番号零ナンバーゼロという異世界の人間です! そいつが……!」


 蜥蜴の化け物が指を差した瞬間、看守長は無表情のまま片手斧を振り下ろし、蜥蜴の頭を吹き飛ばした。彼の体は崩れ落ち、そのまま動かなくなった。


「人間ごときにやられるとは、情けない! 情けない!!」


 看守長の声が轟くと同時に、空気が震え、大地に響き渡るほどの重低音が広がった。その力強さに、周りの看守たちは一瞬で戦意を取り戻し、再び士気が上がる。


 だが、俺はそんな状況に――笑ってしまった。


「おい、零! 何がおかしいんだ!?」


 ヴィルが驚いた顔で俺を見つめる。しかし、俺は止まらない。


「可笑しいよ、ヴィル。だって、この世界そのものが狂ってるんだ。俺じゃない。可笑しいのは、この世界だ」


 俺はヴィルの不安を無視して、目の前に立ちはだかる看守長を睨みつけた。奴の体格は異常なほどに巨大で、筋肉が鎧のように隆起している。だが、俺の復讐の炎を前に、そんなものは無意味だ。俺は静かに深呼吸をし、両拳を握り締めた。


「大丈夫かって? お前、俺を誰だと思ってるんだ?」

 そう言いながら、俺は口元に微笑みを浮かべた。看守長が踏み出し、地面が震えるほどの衝撃音を残す。それを見た看守たちはざわめき、俺を嘲るかのように笑っている。


「おいおい、もう終わりだな」

「誰かあのバカを止めろよ。死んじまうぞ」


 だが俺は、視線を逸らすことなく看守長に向き合った。奴の拳が振り上げられた瞬間、俺は一気に前に踏み出した。周りの声が遠ざかり、俺の意識は看守長の一撃に全てを集中させていた。


「お前の支配も、ここで終わりだ」


 俺の武器が、看守長の顎を狙い一閃する。


 ゴキッという音とともに看守長の首が曲がっては行けない方向に曲がっていく。


 看守長の巨体が、まるでスローモーションのように揺らめき、その場に崩れ落ちた。看守たちの歓声も怒号、一瞬にして凍りついたように静まり返る。俺の武器には、まだ看守長の血と汗の温もりが残っていたが、それさえもすぐに冷たく感じた。



 俺は静かにそう呟き、ヴィルの方に振り返る。彼は驚愕と恐怖が入り混じった表情で、俺を見つめていた。だが、その表情さえも今の俺には関係ない。俺の目的は復讐。そのためには、この世界にいる全ての敵を倒す必要がある。


「ヴィル、行くぞ」

 俺は冷たく命じると、足元に倒れた看守長の死体を一瞥もくれず、ゆっくりとその場を立ち去った。


 第二階層を目指す俺とヴィルは《迷宮カーストダンジョン》と呼ばれる空間に閉じ込められている。この反異世界は、いわば地下の世界だ。地上とのつながりなどはなく、異世界に召喚されたが使えないと言われて送り込まれた者やこの世界の囚人カルムなどがいる場所が俺たちのいるところだ。この階層から脱出するには第三階層までいき地上に出ることが必要であるとヴィルは言っていた。

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