第2章 街道裏のカナタ
第5話 街道裏のカナタ①
ドゥルルル……。
一定のリズムで低音を響かせ機装馬が街道を走る。
幾つかの丘を連続で越え来たがこれで最後だ。
この丘を越えれば目的地である教区街が見えるはずだ。
機装馬を操りながらカナタは少しだけ緊張していた。
前回、教区街へ向った時は、この丘の近くで野盗に襲われた。
思い返せば、その先はトラブルの連続であり、結果として今回の依頼に至っている。
あの時の野盗の襲撃は、ある事件の首謀者により意図された物であった。
そのため、今回も街の近場で襲われる可能性は低いと思われるが、どうしても気になってしまう。
機装馬の右前脚の脇には狩猟用長銃を括り付けてあり、他にも腰のベルトには短剣と短銃を吊ってある。
短距離の移動としては過剰とも思える装備だが、野盗の重装化が進む昨今では、これでも一目散に逃げるのが最適解と言えた。
そのような考えに支配されているうちも、機装馬は順調に移動を続けており、ついに最後の丘の頂点へとたどり着いた。
頂点の先、そこはなだらかな下り坂が続き、その先には城壁に囲まれた巨大な街が見える。
中央に3本の電波塔を要するこの地域最大のアルバート教会の聖堂を囲むように佇む街。
通称『教区街』。
改めてその全容を見るカナタは、ある思いに駆られていた。
聖堂の第1電波塔での戦い。
自分にとって大事な懐中時計を盗み出した野盗を追ってのことだったが、その野盗がはるか北方の魔導帝国の工作員であることを知ったのはしばらく後だった。
ともかく、その工作員の後を追いかけた結果、聖堂の中で大立ち回りを演じることになった。
その結果は惨敗。
一瞬の隙をついて、工作員にカナタは無力化されてしまったのだ。
その後、同行していた魔術師によって助け出され、ついでに懐中時計を取り戻してもらった。
カナタにとっては物流運送業者となって始めての本格的な敗北であり、悔しさに涙を流したが、その時に魔術師に言われた。
自分たちは
普段は飄々として掴みどころのない男であるが、その言葉はカナタの心に重く響く言葉だった。
その後、何度か戦闘に遭遇したがそれは常に配達の過程であった。
そして今後も必要以上の戦闘は避けるつもりでカナタはいた。
「ま、考えていてもしょうがないか。」
カナタは誰に言うでもなく言うと、ゆっくりと機装馬を走らせた。
教区街まではまだ少し距離があるが、早めに街に入ってしまえば今日中に仕事は完遂できるだろう。
自分は運送業者なのだ。
1日でも早く配送することが何よりも重要だ。
下り坂で勢いが増していく機装馬を操りながら、落ち込みそうな気持ちを鼓舞する。
その先に新たなトラブルがあることをカナタはまだ知らない。
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