第7話

江上は三人を引き連れ、明かりの消えたこの街の公民館の駐車場であることを話している。

「本当にやるんです?」

 とそのうちの一人、河本が尋ねる。安っぽいネックレスをつけた男だ。

「ああ、やるさ」

 と自信満々な顔つきで江上が言う。

「園田さんに止められたじゃないですか」

 ドクロのプリントを目立たせたシャツを着た福島が尋ねる。いらいらした江上は、

「うっせえわ!やると言ったらやる!俺は決めてんだ」

 と江上は言った。

 一言も発していない中本は「俺は降ります」

と一言だけ残し、帰っていった。「なんだ彼奴」とにらみつける江上。

「江上さん、でどんな作戦なんですか?」と福島が言うと、

「レジ強盗じゃなく、バックヤード強行突破や」

 と言い放した。それぞれが頷く暇もなく、江上は大声で叫んだ。河本は内心、江上が園田に対して嫌悪感を抱いていることを悟っていた。

 

  *

 

 ようやく五番通路の手直しに差し掛かった。 

今日この日もいくつか商品の場所を訊ねられた。鶏がらスープの素、片栗粉など。何故粉ものが多く聞かれるのかは知らない。

 そうこう手を動かしているうちに、反対側の通路の方から川口がやってきた。自分がやっていない場所、約一メートルほど先に川口は来た。

「で、なんか浮かんだ?」と川口が言う。

「何とか成り行きに任せれば何とかなるさ」

 と適当なことを吐いた。

「まずはさ」

 と川口が途中で息をのむように言った。

「ブルドッグの野郎の特徴を挙げていこう」

 名案を挙げてくれた川口にいいねと言うと、少し顔をぶたれた様な感覚に陥る。慌てて特徴を探す。

「一人に執着するとか?」

 と言うと、そう!と楽しげに言ってきた。確かに以前の問題行動も一人を狙った悪行だった。

 

青果部門の高校生の女の子が執拗に指摘され、そのまま辞めてしまったということも聞いている。バックヤードで包装した野菜を売り場へ出そうと、いつも通り商品をカートに乗せ店内へ出る。いらっしゃいませと元気よく言いながら商品の位置に着き、品出ししようとしたその瞬間、真後ろにブルドッグがいたそうだ。恐れ慄いた女の子は「なんでしょうか」と尋ねると、「活気がない」だとか「働いている意味がない」だとか様々な言いがかりを探し、何度もその子を攻撃した。しかもそれが三度目である。

「だからね、俺思いついちゃったの」

 と川口が言う。「ん?」と聞こうとすると、

「案外危険かも。クビになりかねない」

 と弱弱しく吐いた。その子の話を思い出し、これ以上の犠牲が増えるならと、「いいよ」と力強く言った。「まじで?」と言ってきたが、恐らく同じことを考えていたのか、「よし」と言い放った。

  

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百鬼夜行マーケット 雛形 絢尊 @kensonhina

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