第3話
次のシフトは金曜日だった。二個上の先輩、伊地知豪先輩だ。ごう先輩と呼んでいる。あともう一人、三つ上の横田先輩がいる。いい逸月曜日のシフトが被っている。バイトを掛け持ちしており、なかなかに被らない。意外にも川口とも週一でしか被らないことに気づいた。午後六時前に更衣室で会い、挨拶を交わしそのまま一緒にタイムカードを切りに行く。更衣室のドアを先に開け、先輩に譲る。ありがとうと言われ、いつものように嬉しくなる。気づいたことは帽子をかぶっていても気づく、また髪色を茶色にしていたことだ。それはあえて言わないことにした。まるで、恋愛漫画の恋する乙女のようになっていたが、気にしないでほしい。
「何、副店から聞いたよ」
少し前を歩く伊地知先輩は振り向いて言った。副店とは副店長代理の略である。『北川』のことを指す。
「ブルドッグの野郎、復活したんだってな」
と少し笑いながら言ってきた。そうなんですよと答え、人もまばらに見えてきたバックヤードで挨拶をする。数人が挨拶をしてくれ、
数人はパソコンを使っていて無反応だった。
貴重品をロッカーに入れて、タイムカードをピッと鳴らす。出勤のボタンを押し、16:57の表示が点滅した。「まあせいぜい、気をつけろよ」と言い残し、伊地知はいらっしゃいませと言いながら店内へ飛び立つ。金曜日は惣菜部門の手伝いと言うことを途端に思い出し、長靴を取りにまた戻る。
長靴を履き、こんにちはと惣菜のスライドドアを開ける。まだ少し残っていたパートのおばさんと挨拶を交わし、部屋に入っていく。今いるのが弁当を作る部屋、その隣には揚げ物を作るフライヤーのある惣菜を作る部屋、二つに分かれている。そちらの方の部屋に一つ下の後輩、吉沢がこんにちはと言い、返す。
元々は惣菜部門にいたころに面識があり中もよい。礼儀もしっかりしていていい奴だ。
黙々と弁当を作る部屋の掃除をし、管理部門の仕事に戻ると伝えた。ありがとうございますと感謝を告げられたところで、
「また現れたそうですね」
と吉沢が口を開いた。
少し強気で、
「俺、奴と戦ってみることにするよ」
と言った。我に返るとなかなかに恥ずかしいが。
「健闘を祈ってます」
と吉沢は親指を上げグッドサインを送ってくれた。なんていい奴なんだろうと思っていたら途端に吉沢も笑みを浮かべた。伊地知先輩は管理の仕事を遂行中だ。
伊地知先輩のもとへ急ぐ。九ある通路を手直しする中でさすがベテランだと思ったことは、もう五番通路まで来ていたことだ。一時間ちょいで五番まで来ることはなかなかに凄いことだ。
「遅かったからやっちゃっといたよ」
と言われ駆け寄りながら申し訳なさそうにありがとうございますと言う。
するといきなり、伊地知先輩の口から不思議な単語が出てきた。
「聡、鬼門って知ってるか?」
さあ、と答える自分の頭には鬼門よりも疑問が開いた。
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