第10話:ハグにおまじないのキス。

アブゼルに車で送ってもらって好人とジョリーは館に帰ってきた。

少しだけ休憩してからジョリーが言った。


「さ、ヨシト・・・人間界に帰る準備するね」


そう言うとジュエルは、床に何か書き始めた。

見てると、まず最初に大きな円を描いて、その中に星の形を書いた。

で周りに、よく分かんない文字を書き始めた。


「ほい、お待たせ・・・準備完了・・・出来上がったよ・・・・」


「あ〜魔法陣?・・・え?それだけ?」


「よく知ってるね」


「まあね、そう言う不思議な世界を扱った雑誌とか好きでよく見るからね」


「そ・・・じゃ〜ヨシトから円の中心に入って」


そう言われたから好人は円の中央に入った。

僕のあとにジュエルも入ってきて、円の中心にふたりおかしこまりした形で

向かい合わせに座った。


「はいっ、ヨシト、私とハグして・・・」


「ハ、ハグ?・・・え?なんで?」


「私とヨシトが離れ離れになっちゃうと同じ場所に出れないかもしれないから」

「はい、抱っこして・・・」


だから好人はジュエルをハグした。


「わは〜柔らか〜・・・それにいい匂い・・・気持ちいい体がトロケそう〜」


「向こうはついたら、もういいってくらいハグさせてあげるから・・・」

「って言うか、私がハグしてたいの」


「さ、いい?いくわよ」


そう言うとジュエルは好人のクチビルにチュってキスした。


「で?、今のキスはなんのため?」


「幸運のおまじないだよ・・・無事に人間界に辿り着けますようにって」

「じゃ〜、しゅっぱつしんこ〜!!」


「エッチシッテオンナボッキャニンシンシッテハ〜ラボッテスッポン」


「なに?それ呪文?」


ジュエルがそう唱えると、好人はフッと気を失っていた。

で、目覚めたところが?・・・


「ここは?・・・」


周りをキョロキョロ見渡して気づいた。


「あ、歩道橋の上」


それは見覚えのある光景、好人が耳鳴りで気を失った歩道橋に上だった。


「帰って来たんだ・・・」


確認するまでもなくジュエルは好人にしがみついたままだった。

心地よくていい匂いがする可愛い小悪魔のエロっちい体。


ハッとして好人はすぐに彼女から離れようとした。


「もうちょっと・・・」


ジュエルまだ抱っこしてたいらしい。


「ジュエル・・・どうやら成功したみたいだね」

「人間界に帰って来れたみたいだよ」


「おまじないのチューが効いたみたいね、ヨシト」


「そうみたいだ・・・」


コシュマールヴィルへ行ったのもこの歩道橋だし、戻ってきたのもこの歩道橋。

もしかしたらこの歩道橋が向こうとこっちの境界線になってるのかもしれなかった。


今度はジュエルが人間界に来てしまった訳で、当然好人と一緒に暮らす

ことになる。


好人はもう亡くしたワンちゃんのことは考えないようにした。

そうじゃないとまた耳鳴りが原因でコシュマールヴィルに行っちゃっても

困るからだ・・・。

ジュエルがいないともう向こうから人間界には帰れないだろうって思った。


好人は、今日が、いつかも分からないしもう就職はとっくに無理だろうから

とりあえず、ジュエルを連れて一旦マンションに帰ることにした。

いつまでの歩道橋にいる訳にもいかないし・・・。


ジュエルはマイクロビキニみたいな格好で露出が多かったから近所の人に

見られやしないか好人はヒヤヒヤものだった。

ここにいる間は僕の服でも着せればいいか・・・好人はそう思いながらジュエル

に話しかけた。


「ここに、人間の​世界に来るのは、はじめてなんだよね?」


「初めてだよ・・・でもここも見たところコチュマールヴィルと、そんなには

変わんないんじゃないの?」


ジュエルを連れて歩道橋を降りて公園を抜けるとすぐ好人と母親が住んでる

マンションがある。


母親は生活費を稼ぐため昼間、働いていたので、家には誰もいなかった。

好人はジュエルを家の中に案内した。

ふたりが家に上がると好人はキッチンの椅子にルシルを座らせて、冷蔵庫の

中から飲み物を出してジュエルに勧めた。


「好人・・・ここに一人で住んでるの?」


「お母さんとふたり暮らしだよ」

「昼間はパートに行ってるけどね」


「パート?、パートって?・・・」


「働きに出てるの・・・ほら僕んち稼ぎ頭の父親がいないんだ」


「ふ〜ん・・・家族の事情ってのだね?」


つづく。

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