Alert Signal 3
歯ブラシを口に突っ込んだまま、ぼんやりと夜のニュースを眺めた。口元から涎が滴りフローリングの床に落ちた。スウェットの裾で拭った。
シビックがひしゃげていた。
フロントガラスは粉々になり、バンパーは外れ掛かっている。かろうじて左片面だけでくっついている。ドアミラーはあらぬ方向に曲がっていて、ひび入った運転席側のサイドガラスから、白いエアバッグと思われる物体が飛び出しているのが見えた。
周囲にはシビックの物とも相手の車の物とも取れぬ破片が散らばっていて、並大抵でない事故の様子を視聴者へと伝えている。
ダンプカーが突っ込んだそうだ。工事現場の、いらなくなった資材などを集積するダンプカーで、物は乗っていなかったそうだが、その質量差である。
シビックなんか、きっとひとたまりもないだろう。
わたしの目に、その突っ込んできたという薄汚れたダンプカーに傷があるとは分からない。
知っている道。
知っている場所だった。
それもそのはずで。そこはいつも通っているシエラの前だ。
百メートル手前の交差点で、今朝、どうやらそんな事故が起きていたらしい。
わたしが来る頃にはもう何も無かったのに。残っていなかったのに。
信号無視して突っ込んできたダンプカーに、左折しようとしていたシビックが衝突してと、ニュースは伝えていた。
『交差点で信号待ちしていた、近くに住む高校生とみられる少女がひとり、事故に巻き込まれ同時に病院に搬送され――』
ついでのようにキャスターが付け加えたその文言。わたしはきっとそれが箒ちゃんじゃないかと思った。
ぺっと口をゆすぐ。
「まだ誘っていないのに」
明日もバイトだった。
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