お誘い
「ああいうのできるの見ると、ここもいよいよ終焉が近いのかなって思うよね」
「終焉て、またあ」
雪菜子さんと久しぶりに一緒になったその日。わんわんにゃんにゃんの去った跡地にさて何ができるのかと運ばれている資材を見ている内、わたしたちは次第にそれを察した。
白、白、白。クリアケースにクリアケース。上下にふたつずつ。それがずらりと並び、列を成す。と言っても、三列。
遠目でもわんにゃんのスペースを埋めるにはちと足りな過ぎるんじゃないかと思った。予算? ああいうとこにおける予算っていったいどこが出ているんだろう? シエラ? アレはアレで『うぇぶり』みたいな親会社がいるのか? よく分かんない。だって、アレだけでテナント料賄おうってんでしょ? 無理じゃん。じゃあやっぱシエラかな。うん。
ともかく。
「ガシャガシャって」
わたしは肩落とし呟いた。
「ねえ」
同調するように雪菜子さんは息を吐く。
無人店だった。無人店っていいよね。人件費掛かんないんだもんね。殆ど初期投資だけ。ガシャガシャの景品なんてたかが知れてるし。
詳しくないけれど、社員一人の給料が二十万円だったら、その倍は利益上げないと元が取れないと聞いた。前勤めていたブラックから聞いた話だからどこまで信じていいやら眉唾だが。そう言って発破かけてただけかもしれないし。
でも、だからわたしはアルバイトなのかな。四十万どころか、自分のお給料分すら稼いでるか怪しい。いや、社員になんてなりたくないけどね。今暫くは責任と無縁の人でありたいよ。
ガシャガシャかあ。長らくやってないな。最後にやったのいつだっけ。さっき店舗から出て見てきた感じ(暇だからうぇぶりが目に入る範囲なら割と自由に歩き回れる)、100円から200円、上は400円まで値段も種類も様々だった。
「なんか一個やろうよ」
「えー。いいですよお」
雪菜子さんが尻ポケットからお財布を取り出し示した。わたしは雪菜子さんのお尻に向かって軽く返事し、三十分振りに店内に入ってきたお客さんに目を光らせた。
「ラーメンでも食べ行く?」
「ふぁっ」
間の抜けた声を上げてしまった。
それもそのはず。日曜日。雪菜子さんと一日一緒の日。今日も今日とて暇な時間を二人で過ごした。話すは話すけれど、流石にこうも暇、ずっと同じ空間にいてずっと一緒だと自然話すこともなくなるというもの。終わり際、「やっと終わったー」という開放感と同時、わたしに向けて吐き出されたその言葉。わたしは失礼にも、
「え? 話あるなら今までいくらでも時間あったじゃん?」
とか思ってしまって、せっかく誘ってくれた相手の顔を見、自分の性格悪さに、改めて本当に嫌になった。
「無理にとは――」
「い、いいですいいです! 行きましょ行きましょ! 雪菜子さんとご飯とか行ったことないですし! ラーメン! いいですねっ、ラーメン!」
「そうだねハンバーガーちゃんとは行くのにね」
「だあっ! いじわるっ!」
「ふふ」
微笑んでくれたので、そっと胸を撫で下ろした。
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