第2話 過去の影
最初の試練を乗り越えた彼らは、次の部屋にたどり着いた。
部屋の中は薄暗く、冷たい空気が漂っていた。
突然、ケンジが叫び声を上げた。
彼の手首に野生の猫が飛びかかり、激しく噛みついたのだ。
「何だ、こいつ!」ケンジは驚愕し、手首を振り払おうとしたが、猫はしっかりと噛みついたままだった。皆がその光景に呆然と立ち尽くす中、猫はようやくケンジの手首を離れ、逃げ出そうとした。しかし、一度だけケンジの方を振り向き、威嚇の声を上げた。
ケンジはその猫の尻部を見てぞっとした。
あの時の子猫も事故で尻尾が無かったからだ。忘れもしない、あの忌まわしい出来事が脳裏に蘇った。
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#### 回想: **「過去の罪」**
ケンジは仕事のお盆休みを利用して田舎の実家に帰省していた。実家ではこの時期、虫がたくさん発生していた。そんな中、ケンジは庭で洗車をしていた。洗ってもすぐに虫がたかるので、ケンジはイライラし始めていた。
ふと、ケンジは車のボンネットの上に小さな猫の足跡がついていることに気がついた。
そして、ボンネットの端の方には猫の爪の跡も残っていた。
ケンジが車の外装を隅々まで見渡して見ると、
車の下に一匹の野生の子猫が丸くなって座っていた。
ケンジは怒りのあまり、子猫の首を掴んで激しく振り払った。
すると、子猫は運悪く道の向かいガードレールの下から崖の方へ滑り落ちそうになっていた。
偶然そこに小学校低学年くらいの小さな男の子が通りかかり、子猫を助けようとしはじめた。
しかし、男の子だけでは力が足りず、近くにいたケンジに助けを求めた。
「そこのお兄さん、一緒に手伝って!」
しかし、ケンジは素直になれなかった。
ケンジは病気で死んだ親父が生前大切に乗っていた、
ケンジにとって父との思い出の詰まった大切な車に傷が入れられたのが許せなかった。
ケンジは連休の度に実家に戻っては病気がちの母を手伝いながら亡き父の車の手入れをしていたのだった。
ケンジは車の側から離れずに男の子の声に背を向けたまま下を向き続けた。
男の子の呼びかけを無視して。
すると突然、男の子が踏ん張る地面の土の足場が崩れた。
「あっ!」
「何!?どうした!?」
ケンジは慌てて男の子のいたガードレール側に駆け寄ったが間に合わななった。
「助けてー!!」
バーン!!
激しい水しぶきが上がった。
ケンジは崖の上から真下の川を覗いて男の子の行方を目で追ってみたが、みつけることは叶わなかった。
川は瞬く間に朱色に染まっていた。
ケンジは顔面蒼白な形相で、ガタガタと恐怖に肩を震わせていた。
その日の夕方。
男の子には捜索願いが出され、警察沙汰に発展していた。
翌日の午前中、川の周りには近所の人達が集まってきた。。川から男の子の遺体が発見されたのだ。
ケンジは警察から重要参考人として事情聴取を受けたが、真相を正直に話せなかった。
証拠不十分として男の子は不運な事故として片付けられた。
ケンジは今までその時のことは誰にも話さずに隠し通してきた。
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#### 現在: **「狂犬病の恐怖」**
突然、ケンジは床に倒れ込んだ。
「どうした、ケンジ!?」
ケンジは手首の痺れとともに、意識が朦朧となってきていた。
「え、何?
どういう事?」
アヤは戸惑った。
ミサキは咄嗟に彼の額に手を当てた。
「凄い熱!
ねえ、ケンジさん!
しっかり目を開けて。
今目の前には何が見えてる?」
ミサキはそう言いながらケンジの目の前に外した腕時計を近づけた。
「川が、見えるぜ。
はっきりとな。
あの時の真っ赤に染まった川がな!」
ケンジは意識が朦朧とする中、声を絞り出すようにそう言った。
「不味いわね。
発熱と幻覚。
これは狂犬病の初期症状の可能性があるわ」
「え、狂犬病?ケンジさんが噛まれたのって猫ですよね?」
「ええ。狂犬病って病名だけど、感染源は何も野生の犬だけに限らないのよ」
「どうすればいいんだ?」
ユウが焦りながら尋ねた。
「依頼者Xが用意した道具があるわ」
ミサキはそう言うと、部屋の隅に置かれた箱を指差した。
「この道具を使えば、ケンジを救うことができるかもしれない。」
箱の中には、一見何に使えるかわからない数少ない道具が入っていた。ミサキはそれを手に取り、慎重に使い方を考え始めた。
「みんな見てみろよ。
次の部屋への鍵は既に用意されている。
ここでケンジを救わなくても次の部屋へ行けるが…、みんなどうする?」
ユウは言った。
中年のビジネスマンであるタカシは答えた。
「狂犬病って確か、致死率100パーセントの病気だよね?
本当は残念なんだけど、
何者かに隔離され病院に行けないこの絶望的な状況ではね。
ユウくん?
君はどう思うかい?」
「俺もね、残念だけど……」
「嫌よ!
私は1人でもケンジさんを救う!!」
アヤは皆にむけて独り強く言い張った。
そして……
「みんなごめんね。
先に行って……」
アヤは涙を浮かべながらその場に残ると言ってきかなかった。
「アヤちゃん……」
同じ女性であるミサキは、何も発さずにただアヤの手を優しく握った。
結局、残されたみんなはアヤを独りで置いていくことができなかった。
ケンジの生還に知恵を絞り始めた。
ミサキは道具を使い、ケンジの手首を治療しようと試みる中、ユウとアヤはケンジを励まし続けた。
「オレ、このまま苦しみながら死んでいくのかよ、死にたくねえ〜!
いっそ、ひとおもいにここで即死させてくれよ!」
ケンジは涙を流して恐怖に震えた。
ユウとタカシは、そんなケンジが暴れないようにすることで精一杯だった。
「大丈夫!絶対に助けるから、諦めないで」
アヤはケンジに言いきかせた。
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#### 治療の過程: **「サバイバルな治療」**
Xの用意した道具
2Lのミネラルウォーター一本
台所用塩素系漂白剤一本
紙コップ1個
ウエットテッシュ1袋
裁縫針
裁縫糸
ミサキはまず、ケンジの手首を水で徹底的に洗浄した。
傷口に残ったウイルスを可能な限り除去するためだった。
次にキサキは、紙コップを使い塩素系漂白剤を水で薄め、ウエットテッシュに染み込ませると、傷口を消毒した。
「これでウイルスの一部は除去できたはず。
でも、まだ安心できないわ」
ミサキは続けた?
「俺は何か手伝えるか?」
ユウは聞いた。
「それじゃ、私の上着を何枚かに破いてくれない?」
「ああ、わかった。
けど、何に使うんだ?」
「ごめんなさい。今集中してるから」
「あ、ごめん」
「狂犬病ウイルスが神経を通じて脳に達する前に、できるだけ早く対処しなければならないの。
ここにある道具を使って、私が応急処置を施すわ」とミサキは言い、針と糸を手に取った。
「まさか手芸針で傷口を縫合するの?」
アヤが驚いた声を上げた。
「そうよ。傷口をしっかり閉じて、外部からの感染を防ぐの。さらに、傷口の周囲に今ユウ君が作ってくれている衣類の切れ端を巻いて圧迫することでウイルスの拡散を遅らせるわ」
ミサキが皆に説明した。
ミサキは慎重にケンジの手首を縫合し、
衣類の切れ端を巻いて圧迫させた。
ケンジは痛みに耐えながらも、仲間たちの努力に感謝した。
そして、過去の罪を償う決意をした。
「ふぅ。
これで少しは安心できるわ。
でも、完全に安全とは言えないわ。
早く医療機関に行く必要があるわ」
とミサキが言った。
「みんな、ありがとう……」
ケンジは静かにそう口に出すと寝息をたてながら眠り出した。
「ありがとうございます。
ミサキさん」
「アヤちゃん。
何であなたまでお礼を言うのよ。
それに、お互い社会人だし歳もそんなに違わなさそうだし。
私の事はミサキでいいわよ」
「はい♪」
トントン
「え?」
「ミサキさん、ちょっといいですか?」
ミサキは背中から声がしたユウのほうを振り返った。
ユウは小さな声で続けた。
「ケンジさんとアヤ《あいつ》には内密にお願いしたいんですが、ケンジさん本当に助かるんですか?」
#### 現在: **「猜疑心」**
「あなた気付いてたのね。
そうよ、彼は多分助からないわ。
でも、どうして君はわかったの?」
「俺も昔、狂犬病について調べた事があったんで。
ところで、俺からもう一つ質問いいですか?」
「いいわよ」
「ミサキさんは科学者ですよね?
この空間はスマートフォンが圏外で
調べ物は出来ないはずなのに、
医学的な知識は専門外なはずなのに、
何故あなたはあの様に手際よく施術が出来たんでしょうか?
あなた、もしかしてX側のスパイだったりしませんよね?」
「あはははは!
あなた、面白いわね」
「それで、どうなんですか?」
「もちろん違うわ。絶対に。
信じてもらえるかしら?」
「証拠が無ければ残念ながら」
「仕方ないわね。
皆には内緒よ。
私は2●●だからよ」
ミサキはユウの耳元で呟いた。
「なるほどですね。
わかりました。
俺、秘密は守りますよ」
「やっと見つけたー!」
アヤの声だった。
「タカシさ〜ん!
二人とも見つかりました〜!」
「そっか、それはよかった!」
「もうっ!
ユウ?」
「ご、ごめん」
「それに、ミサキさ……もです」
「ごめんなさい」
「二人とも勝手に離れて遠くへ行かないで下さいね!
私とタカシさん、心配してずっと二人を探してたんですから」
「次の部屋に行こう。もしかしたらそこに医療機関への道があるかもしれないし」
ユウは皆んなに向けそう言った。
なるほどね。
そりゃ頼りになる訳だ
それと、アヤ。
実はあいつの事も気になる。
高卒のあいつは社会人だが俺の幼馴染だ。
あいつ、いつもは冷静沈着でクールなキャラなのに、今日のあいつは何か変だ……。
エニグマ 憮然野郎 @buzenguy
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