第10話 4人の従者

 男の子と別れて村から城へと帰る際、俺は森の中で迷子になってしまった。

 数時間かけてようやく城へと戻った俺のスーツは、ボロボロになってしまっていた。


「強い敵と戦っていたんだ」


 と、俺はアネリーに対して無理矢理すぎる嘘をついたが、どうやら信じてくれた?らしい。


「だから私は1人では危険だと言ったじゃないですか! まず、私達の王であろうお方がそう易々と1人になってはいけないのです! これからは私がずっと傍に着いていた方がよろしいみたいですね! …以下略… 」


 アネリーは俺に対してうるさい小言を永遠と続けた。


「なんだか、口うるさいおばさんみたいだぞ」


 あっ… 俺はついそう言ってしまった。


「ひ、酷いです!非道です! 私は年齢のことずっと気にしてるんですよ!」


「ご、ごめん… 本意じゃないんだ」


 俺はとりあえず謝っておく。


「グリオス様が反抗期になられましたーー!

グリオス様が反抗期にーー!」


 アネリーは、この広間の外にいる俺の下僕たちに聞こえるように大声でそう叫んだ。


「ちょっ、 まじでごめん… 頼むから大声で叫ぶのは辞めてくれ!」


「グリオス様が反抗期にーー!!」


 くそ!こいつまじでムカつく!


「分かったよ! アネリーは若いよ、凄く可愛くて綺麗だよ!」


 俺は仕方なく、アネリーを褒めた。


「まぁ! グリオス様はそんなに私のことが好きなんですね// そんなに褒められると恥ずかしいです//」


 こいつクソほどめんどくさいな…


「機嫌は治ったか?」

「はい!」


 アネリーは元気な笑顔でそう返事をした。


「とりあえず風呂に入って、服を着替えたい」


 こんなボロボロで汚れた服を着ていては、下僕たちに示しがつかないだろう。それにあの村にいた間は風呂なんて入れなかったから、俺の体は多分臭い…


「でしたら、お部屋までご案内致します。

グリオス様は余り道を覚えるのが得意ではないようですので」


 な!? こいつもしかして俺が森の中で迷子になっただけな事知ってるんじゃないのか…

クソッ… 怒りたいけど恥ずかしくて言えない、


 廊下に出てみると、さっきまで無数にいた下僕達は全員どこかへ消えていた。あいつらはいつもどこに居るんだろう?


「身だしなみを整えましたら、グリオス様に紹介したい者共がおりますので、もう一度広間の方へお願い致します。」


 アネリーはそう言い残して、俺の寝室の扉を静かに閉めた。


 窮屈なスーツを床に脱ぎ捨てて、俺は直ぐに風呂へと向かった。


 風呂にある大きな鏡に、まだ見慣れない自分の姿が写っている。


 こいつめちゃくちゃイケメンだな… しかも高身長で、体には引き締まった筋肉が程よく付いている。


 俺の容姿がめちゃくちゃ良くても、何だかそれが自分のものだとは思えない。皮をかぶっているみたいだ…


 シャワーを浴びてタオルで体を拭いた後、俺は右手から強い熱風を出して一瞬にして髪を乾かした。


 自分の力の使い方には何だか自然と慣れていた。


 あ… 体もこうやって熱風で乾かせばよかった。


 クローゼットの中には数十着の綺麗な黒いスーツがあったので、テキトーにその中の一つを着た。


 扉を開けて廊下へ出ると、アネリーがそこに立っていた。


「さぁ、行こうか」

「はい。グリオス様」


 廊下を歩きながら、俺はアネリーから今からやる事を聞いた。


「これから何するんだ?」

「グリオス様の従者の中で最も強い者たちを数名集めましたので、ご挨拶をと思いまして」


「そうか、楽しみだ」


 俺は魔物の王だから、胸を張って少し眉間を寄せて歩いた。


 先ほどまで居た広間の扉を、俺はもう一度開けた。


 そこには、2人の男と1人の女と1人の男の子が俺に向かって跪いていた。


「お目にかかれて光栄でございます。ボス!」


 4人の従者達は声を揃えて一斉にそう言った。


「お前達が従者の中で最も強い者たちか」


「はい。1人づつ簡単にご紹介させていただきます」


 額から一本のツノが生えた筋骨隆々の男はそう言って話し始めた。


「私はレイキと申します。ボスに仕える鬼共の頭をしております。」


 見たところ肉弾戦向きといったところだろうか。見た目は10代後半だけれど、この落ち着きと体の大きさはさすが鬼だ。


「俺の名前は幸四郎と言います。何でもご命令下さい」


 幸四郎!?


「お前日本人なのか!!」

 

 俺は驚いてそう叫んでしまった。


「日本人?それは何でしょうか。俺はただの魔物です」


 冷静にそう言う幸四郎を見て、俺は全く冷静になれなかった。


 彼の着ている物は旧日本軍の軍服だ。それに左の腰にあるそれは日本刀だ。


「嘘をつくな、日本人だろ?」


「俺は魔物です」


「嘘ならば殺すぞ」


 俺は幸四郎に手の平を向けた。


「俺は魔物です」


「そうか、悪かった。忘れてくれ」


 俺は直ぐに手を引いた。日本人という言葉に何も反応しなかったのだから本当に知らないのだろう。


 それに俺は、もう昔の世界のことはどうでもよかった。


「わたくしは、マリーと申します。吸血鬼として500年生きてきました。どうぞよろしくお願いいたします」


 そう言って笑ったマリーの口からは、2本の鋭い牙が見えた。見た目は10代前半の女といったところだった。


 綺麗だ…


 そう思った瞬間に、俺の後ろからただならぬ殺気が襲ってきた。アネリーだ、


「グリオス様…」


 アネリーはそう囁いて俺の肩に、手を置いた。


 怖いよ…

 

「ぼ、僕の名前はルークです!が、頑張ります!」


 その子は、そう言って何とも可愛らしくお辞儀をした。小学生ぐらいだろうか、正直全く強そうに見えない…


 けれど、何だか周り一帯に愛おしいような幸せな雰囲気が流れた。


「け、喧嘩はダメですよ!」


 ルークはそう言うと、アネリーは何だか落ち着いたらしく、静かに一歩下がった。


「そうだね、喧嘩は良くないよね」


 俺はそう言って、ルークの頭に手を優しく置いた。


 ルークは嬉しそうに笑った。


 ああ、この子可愛い… 白金の髪がサラサラしていて、大きくクリクリした目は子犬みたいだ。


 抱きしめようかな… いいよね、俺魔物の王だしいいよね?


 俺がそう考えていると、名前も知らぬ一人の従者が慌ててこの広間へ入ってきた。


「ゆ、勇者が、勇者がこちらへ向かってきています!」


 え? 勇者??

 





 







 

 


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死んで起きたら、ラスボスでした。 首のないキリン @kubinonaikirin

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