第7話 魔物への憎しみ
「ここから近くの町に案内してくれ」
俺は一つのシワもない黒色のスーツを来着て、そう言った。なんだか、大人になれた感じがする。
「町というと、かなり遠出になってしまいます。小さな村でしたらここから歩いて20分程の所にございます。」
「じゃあそこに行こう」
「はい」
俺はこの城の出口?玄関?までアネリーの後をついて歩いた
これは俺一人だったら絶対迷子になるな…
下手に探検なんかしたら詰んでたよ…
なんて情けないことを考えている俺だが、このスーツのおかげか昨日のアネリーの指導のおかげか、何だか背筋を伸ばして歩いている。
迷路のようなこの城の中を歩いて、ようやく外へと出られた。
そういえば、この世界へ来てこれが初めての外出だ。
扉を開くと、目の前には大きな木と草しかない森の景色が見えた。少し歩いて周りを見渡してみても、森しかない。
その森の中に、死ぬほど大きく真っ黒な城がそびえ建っている。何とも不自然で恐ろしい感じだ。
「なんでこんな森の中に建ってるんだ?」
「グリオス様が眠っている間に、何者かの襲撃などがあったら大変でございますから分かりにくい森の中に作ったのです」
「へぇ〜 誰が作ったんだ?」
「私と他数人で」
「え!すご!? あの城を作ったの!?」
「グリオス様の為でございますか//」
何で顔を赤くするんだよ…
そんな軽い会話をしながら、俺達は森の中を歩いた。
やがて森を抜けると、10数個の小さな家が集まっている寂しい村に辿り着いた。
「人が居ないな…」
「おかしいですね、今の時間は大体畑仕事をしているのですが」
田んぼには一人もいない。家畜小屋の中にいるであろう豚の声だけが聞こえる。
「家の中にいるんじゃないのか?」
「かもしれませんね」
とりあえず俺は、1番手前にある家の前に立って
「あのー、すみませーーん」
と叫んでみた。
「…………」
誰の声も聞こえない。ブヒィッ と家畜小屋から豚の声がするだけだ。
「あのー、すみませーん」
「…………」
「あのー、すみませーん」
「…………」
「あのー!! すみませーーん!!」
「ガタッガタッ」
もっと大きな声を出してみると、家の中からやっと物音がした。
キィ と少しだけその家の扉が開き、無精ひげを生やしたおじさんが顔を出した。おじさんは何かに怯えているような顔をしていた。
「な、なんだ、何か用か?」
おじさんは声を震わせていた。
「いえ、只立ち寄っただけなんですが、全く人影が見えなかったので少し気になって」
俺は腰を低くして警戒されないように話した。
「そ、そうか。お前ら旅人か何かか」
「ええ、そんなもんです。で、どうかしたんですか?」
「お、お前らは聞こえなかったのか? 昨日森の奥から大勢の魔物の叫び声が聞こえただろう?」
あ、もしかして昨日俺が適当にした檄のことか…
「あ、ああ 確かに聞こえました。凄い声でしたよね」
俺は警戒されないようにと笑顔を作ってそう言った。
「あ、あれは並大抵の魔物じゃない。き、きっと魔王の軍勢だ、見つかったらきっと殺されるぞ」
そう言うとおじさんは バタン! と扉を閉め切ってしまった。
そういう事か… 昨日の化け物達の声に怯えてしまって、この村の人達は家の中に閉じこもってしまったんだ。 何だか申し訳ないな…
この村の人達には、それが俺の仕業だとバレない方がいいだろう。
けれど、そんなことよりも俺には一つ気になる事があった。
「なぁ アネリー」
「はい、なんでございましょう」
「魔物とはなんだ?」
「人間よりも上位の存在、言うなれば人間の進化した種族でございます」
「それはお前だったり、昨日目にしたあの化け物達の事か?」
「はい」
はぁ… 俺は魔物だけの王なのか、
「俺も魔物なのか?」
「も、申し訳ございません。それはお伝え出来ません」
「なぜだ!」
「も、申し訳ございません。い、いづれその時が来たら必ずお伝え致します!」
大勢の魔物達を従えているのだから、きっと俺も魔物なのだろう…
さっきのおじさんは魔物に殺されると言っていた。
「魔物は人を殺すのか? お前は人を殺すのか!」
俺は自分でも制御しきれない怒りや悲しみが募っていた。
「い、いえほとんどの魔物は人間に興味などごさいません。人間を殺す魔物も居ますが、それは一種の異状性癖のようなもので、魔物の中でも異端の存在です、」
アネリーは俺の恫喝に怯えて冷や汗をかいていた。
「じゃあ何で、あのおじさんはあんなにも怯えるのだ?」
「そ、それは、どんな魔物でも簡単に人間を殺せる力を持っているからでしょう。
それともう1つ、人間を殺す魔物がいてもそれを止める者が居ないからだと、」
「人間が殺されても何も思わないのか?」
「虫が死んで心を動かす者などおりません」
こいつ、殺してやろうか
俺がそう思った瞬間、アネリーの左腕が血を噴き上げながら弾け飛んだ。
「くっ、、」
とアネリーは苦しそうな声を出した。
「も、申し訳ございません! わ、私は死んだ方がよろしいでしょうか!」
アネリーは左肩から噴水のように血を出しながら、跪いてそう言った。
「いや、死ぬな。お前が死んでも何もならんだろう」
「かしこまりました」
アネリーの腕は直ぐに元に戻った。これはアネリーの力だろうか。まさに、魔物だな…
アネリーの腕を飛ばした俺の力も、まさに魔物だ……
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