第6話 俺という人間

 少しの時間アネリーと他愛のない会話をして、俺はまた眠りについた。昔の夢はもう見なかった。


 激しい朝日を感じ、俺はまた目を覚ます。


 部屋の所々には金の装飾があって、窓から指している光を反射している。高貴で上品な、まるで貴族のようなそんな目覚めだ。


 昔の俺の家庭は普通中の普通、ザ・普通だ。病気になってからも、まぁ普通の病院暮らし。そんな俺に、こんなキラキラした生活は全く慣れない。


 あぁ、何だか憂鬱だ。俺はそう思ってベッドから抜け出した。


 何をすればいいのか、どうやって生きてゆけばいいのか、俺は何も分からない。


 俺はとりあえずの好奇心で、部屋の中を探検することにした。俺もやっぱり男だ、こういうのは何だかワクワクする。


 とは言っても、この部屋にはベッド以外には机と椅子くらいしかない寂しい部屋だ。


 俺はまず、壁を触ってみた。この城?の壁はきっと全部同じ素材でできている。真っ黒で硬く、冷たい素材だ。


 所々に付けられている金色の装飾は何だろうか? 


「こ、これは!? 本物の金だ!!」

 

 なーんてふざけて言ってみても、俺は本物の金何て見たことないから分からない。まぁ、そんな事どうでもいいか…


 次に俺はクローゼットを見つけた。

これは、開けていいのだろうか…

自分の部屋だと分かっていても、何だか開くのを躊躇してしまう。


 数十秒迷って、俺は開き直ってクローゼットを開けることにした。


 ギィぃッ と音を鳴らしてそれは開いた。その中には、黒いスーツやトレンチコートが何十着も収納されていた。


 これは確実に、俺の服じゃない。袖丈も着丈も、俺よりもずっと大きくて長い。


 や、やばい… やっぱりこれは誰かの私物だったのか。見なかった事にしよう……

 俺は静かにクローゼットを閉めた。


 うん? あの扉はなんだろう? 俺の目に1つの扉が写った。


 俺はその扉に近づいて、恐る恐るそれを開けた。


 な、なんだ。ただのシャワー室か… そういえば、この世界に来てから一度も風呂に入って無かったな。


 俺は服を脱いで、西洋風のシャワー室へと入った。そこには鏡があった。


 これは、誰だ? 手入れの効いた長い白髪が後ろで一つに纏められ、鼻は長く睫毛は驚くほどに長い。中性的で綺麗なその顔は、男の俺でも惚れてしまいそうになる。


 俺が横を向くと、同じようにそいつも横を向く。手を振ると、同じようそいつも手を振る。


 もしかして、これは俺か? 


 俺はこんな顔じゃない。こんなに健康的で筋肉質な体じゃない。体はガリガリで、歯並びが悪く、鼻も低いのが俺だ。


 もう俺は、昔の俺じゃないんだな…


 なんだか、自分自身が氷のように溶けて消えてしまうような気がした。


 あんなに苦しい世界で生きてきた自分を忘れてしまう事は、寂しすぎる。


 俺はあの世界で一生懸命頑張ったんだ…

死んでしまったけれど、きっと誰よりも懸命に生きたんだ…


 俺は俺だ… いつになっても、どこに行っても俺は俺であり続ける。 苦しみに耐え続けたあの時間を、絶対に無駄にはしない。


 俺はこの世界でも、今までの自分であり続けるんだ…


 なんだかようやく、俺のやるべき事が理解できた気がする。


 俺はシャワーを浴びた後クローゼットの中のスーツに着替え、アネリーを呼び出した。


「外の世界に行くぞ」

「はい、かしこまりました」


 とりあえず、俺は近くの村に行くことにした。

 

 



 


 

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