第2話 グリオス・ヴァン・ヴァイン

「貴方様は王となったのでございます!」


と、誰だか分からない女は俺の前に跪きそう言った。


これはなんなのか、この場所はどこなのか、この女は誰なのか、俺は死んだのか、生きているのか、俺は俺なのか、疑問という疑問が俺の脳内を埋めつくした。


「あ、貴女は誰ですか?」


俺は精一杯の勇気を振り絞ってそう言った。


「私は貴方様の側近をしております。

アネリー という者です。」


「俺は誰ですか?」

「 グリオス・ヴァン・ヴァイン これが貴方様の名前です。」


グリオス・ヴァン・ヴァイン 俺はそんな名前じゃない。俺の名前は、あれ?、俺の名前は何だったろう。名前を忘れる事なんてあるはずがない。俺は、誰だ?


「俺は誰だ?」


俺はもう一度聞き返した。


「貴方様の名は、グリオス・ヴァン・ヴァイン」


俺はそんな名前じゃない。


「俺は誰だ?」


「貴方様の名は、グリオス・ヴァン・ヴァイン」


違う!違う! 俺の名前はそれじゃない!


「俺は誰だ!」


「貴方様の名は、グリオス・ヴァン・ヴァイン」


焦燥して何度も同じ質問をする俺に対し、この女 アネリー は冷静に返答した。


「申し訳ございません。お目覚めになってすぐでは少々混乱しておられるのでしょうか。そうでしたら、私にお任せ下さい。」


アネリーはそう言って立ち上がると、俺の体に優しく抱きつき、頭を撫で始めた。


…わっ!? 俺は驚いて、すぐアネリーを引き剥がそうとした。


けれど、俺には出来なかった。今までの辛かった闘病生活の中で、俺はこれ程までに人に触れられた事は無かった。俺は、寂しかったんだ。


「少しは落ち着きましたでしょうか」


数十秒抱き合った後、アネリーは俺の体から離れてそう言った。


「うん、少しは//」

「グリオス様の為になれたのなら、光栄でございます。」


そう言ったアネリーの顔は、天使のような美しい笑顔だった。俺は少し、それに見蕩れた。

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