死んで起きたら、ラスボスでした。
首のないキリン
第1話 勇者よりもラスボスに
死んで起きたら、ラスボスだった。
なぜこうなったのか、俺自身全く訳が分からない。けれど、俺は病院のベッドで死んだのだろう。
今から3年前の中学二年生の時、俺は重い病気を患い、それからずっと病院のベッドの上だった。病院での生活はずっとずっと辛いもので、何度も自分で死のうと思った。自分だけが不幸だと感じ、この世界を恨んだ。
世界が全て灰色に見えていたようなそんな時期に、兄が俺の為を思って
「エクス ファンタジー」
というRPGゲームを俺に与えてくれた。
それは俺が産まれるよりも昔のゲームで、グラフィックも悪く、すぐバグるクソゲーだった。
けれど俺はそのゲームにどハマりした。というより、そのゲームに出てくるラスボスが大好きになったのだ。
世界の全てを力で支配し、全てを恨み、ずっと死にたがって、そして退屈している。そんなラスボスに、俺は自分を重ねて見ていた。厨二病的な憧だけれど、自分が操作している勇者なんかよりもずっと魅力的に見えた。
体調が良い時はずっとそのゲームをプレイしていたが、やがてクリアに近づくとラスボス戦がやってきた。俺はラスボスを倒さずそのゲームを辞めた。
俺にはラスボスを倒す勇気がなかった。倒してしまうと、俺の生きる気力のような物が失われるように感じたのだ。
「いつかクリアしよう」
とそう考えていたけれど、それから直ぐに俺の病態は悪化した。今まで感じた事のない激しい苦しみが俺を襲う。やがて視界が暗くなり、キーンという甲高い音だけが響いた。
目覚めるまで、どれくらいの時間が経っただろうか。ずっと眠っていたような気もするし、瞬時に目覚めたような気もする。いつの間にか先程までの苦しみは無くなっていて、数年ぶりの幸せな目覚めを感じた。
「ここはどこだろうか、俺はどうなったのだろうか」
そう思って、とりあえず俺は辺りを見渡した。
黒と金の金属のようなもので作られた柱が並び立ち、まるで大きな神殿か城のように思える。外からの光は全くなく、少し冷えた風がどこからか吹いていた。
「いや、広すぎだろ」
俺は単純にそう思った。この場所は、余りにも広すぎた。学校の体育館の数十倍はあるこの場所に、俺1人だけが居る事に違和感を覚えた。
俺は次に、自分が椅子に座っていることに気がついた。自分が椅子に座っていることに気が付かないとは、何ともおかしな話だが、俺はこれが椅子とは思わなかった。硬い床だと思っていた。酷く硬い石のようなもので作られ、この場所の中央に設置されているこの椅子も、人が1人座るにしては大きすぎる。横になって寝られる程のサイズだ。
何もかもが理解できない。必死に考えてみても疑問だけが残り、無意味だ。この無力感と不安を感じると、俺は生きているのだと分かった。
やがてどこからか ギィィッ と、何かが開く音がした。それは正面にある大きな壁だった。いや、俺が壁だと思っていたものは扉だったらしい。そしてそこから、1人の綺麗な女が歩いてきた。真っ黒な髪に雪のような白い肌をしていて、奇抜なドレスを着ていた。
カツカツ と音を鳴らし、数十秒程してその女は俺の元へ近づくと、床に跪いた。
「貴方様がお目覚めになるこの時を、待ち望んで降りました。貴方様は今この時から、この世界を、この世界に住まう全ての生物共を従え、屈服させ、従順させる王となったのでございます!」
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