#39 3特対採用面接/深山風護
訓練のために幾度となく訪れてきた、3特対・クロナギ中隊拠点の廃校。
「はい、起きて名乗って手を挙げて」
「ミヤマフウゴです。採用面接に参りました」
「うわほんとに就活っぽい……とうとう来たねこの日が!」
もう馴染んだ係のおばちゃんも感慨深そうだ。
警備連隊のアオバ52中隊で任務に励んでいた風護に、中隊長を通じて「他部隊への異動を許可する」「そしてクロナギから面接への招待が来ている」と連絡があったのが先週のこと。その招待にイエスと即答し、オシムラたちにアドバイスを受けながら面接の構想を練り、この本番に至る。
「緊張してる? してるね!」
「そりゃしますよ、面接なんてバイトのしかやったことないですから」
「大丈夫、正装も似合ってるから!」
今日の風護はオリコスである学生服ではなく、霊管における正装ともいえる儀礼用制式容装を着ていた。いわゆる軍服である、入隊式で着たときはテンションも上がったものだ。
手はず通りにクミホ中隊長へと連絡すると「まだ別件で会議中だから少々お待ちを」とのこと。指定された音楽室の前で待機しつつ、これまでを思い返す。転現して斗和たちと出会ってから8ヶ月、いつかの夢物語だった3特対入りのチャンスは意外なほど早くやってきた。
そう、早すぎるのだ。斗和たちに混ざって戦える実力があるとは思えないし、精神面でも未熟だと思えてならない。しかし正式に招待された以上、疑ってかかるわけにもいかない。
斗和から昨日届いたメッセージを読み返す。
〈真剣に人に向き合ってくれる上官たちだってのは私が保証します。飾ろうとせず素直に話せば伝わります、むしろ変に良く見せようとか思った方がバレると思う!〉
〈風護くん自身のことも、風護くんを応援してる私たちのことも、ちゃんと信じて。信じてれば大丈夫!〉
合格すれば斗和は喜んでくれるだろうか――いや、加入をゴールだと思ってはいけない、むしろスタートである。今度は斗和も正式に先輩となるのだ、これまで以上に厳しさも覗かせてくるはずだ。
それでも、応えたいのだ。これまで風護を導いてくれた熱意にも、風護の成長に向けてくれた笑顔にも。風護を守ってくれた、研鑽と勇気にも。
〈お待たせ、入ってください〉
クミホから連絡。気持ちを整え、音楽室のドアをノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
ドアを通り抜ける。ゴスジェの椅子が4人分用意されており、士幹服の3人が座って待っていた。
「ミヤマフウゴです、よろしくお願いいたします」
「はい、そこに掛けて」
「失礼します」」
しゃがれ声が印象的な初老の男性。トワール分隊の属する第1強襲小隊の小隊長、モリノブ4幹。トワール分隊との特訓の際、何度か話したことがあった。
「お、正装も似合うね」
「ありがとうございます、私も好きなデザインです」
彼女はおなじみ、クロナギ中隊を率いるクミホ3幹。そして。
「はじめましてミヤマくん」
上座らしき教卓に腰掛けていたのは――率直な印象、病の少年。中学生くらいだろう、男子にしてはかなり線が細く色白。声も高め、生前は声変わりも終わっていなかったのだろうか。
「僕が3特対の群長、キャスパルトだ」
この場で最もひ弱そうな彼こそが群のトップ、キャスパルト2幹。
「はじめまして、よろしくお願いいたします」
「うん、リラックスしてくれると嬉しい」
流れるような語り口からは、どこか浮世離れした印象も受ける。
「じゃあモリノブ、続けて」
キャスパルト群長に促され、モリノブ小隊長が説明を始める。
「ミヤマくんは以前から当部隊と交流があったため、人となりや戦い方についてはかなり理解できています。またクミホ3幹がゴスラボ顧問も兼任していることもあり、ゴスキルについても詳細に把握できています。
それらに加えてアオバ52中隊での評価を参照するにあたり。3特対、それも第1機動中隊への適性は十分にあると我々は考えました」
「……はい」
「もし気になることがあれば質問をどうぞ」
腑に落ちていなかったのが、モリノブ小隊長には見抜かれていたようだ。
「では失礼します……私はまだ実戦経験もそれほど長くありませんし、ゴスキルの性能もまだ不足しているのはと考えています」
「その不足というのは、何と比較してかな」
「トワール分隊の皆さんですね。私が以前から目指していたのも、長く接しているのも、あの方たちですので」
「確かに。君の実力は、制圧力ではトモエトワールに、防御力ではオシムラマンジュウに、判断力やマルチロール性ではヒデレッドに、それぞれ遠く及ばない。しかしゴスキルを用いるチームの場合、同等の実力を持った者だけを集める必要はないんだ……恐らくだけど、これは生域の軍隊とは大きな違いだと思う」
「はい、私がイメージしていたのも生域寄りの知識でした」
「やはりね……では必要な資質とは何か。まずはそのチームを補強できる能力面、霊管でいうとゴスキルやライセンスがあること。そして補強のために適切な訓練を受け適切に実践できる習慣、それを支える精神面だ」
「その後者を見極めるのがこの場なんだ」
キャスパルト群長が説明を引き継ぐ。
「ヒデたち前線メンバーが、君を仲間にしたいと感じたことも。クミホたち指揮メンバーが、戦力に値すると判断したことも。僕は信用している、なんなら彼らのセンスの方が的確だと思っているくらいだ」
「はい」
「けど、心の形は自分の目で確かめてから納得したいんだ。後悔したくないからね」
「……はい」
群長として、あるいはそれまでの指揮官キャリアの中で。どれだけの後悔を、重ねてきたのだろうか。
「じゃあモリノブ、続けて」
「ええ。それではミヤマくん、いくつか質問をさせてもらうから、形式にこだわらず素直に答えてほしい。回答が複数あれば、絞らなくても構わない」
「はい」
「もし質問の意図が分かりにくかった場合は、君から確認の質問をしてほしい。齟齬はすぐに解消すべきだからね」
「分かりました」
「時間も十分にあるので焦らずに」
「はい、ありがとうございます」
飾らないこと、誠実に答えること、後は――説明を面倒くさがらないこと。
自らに改めて言い聞かせながら、面接は本題に移る。
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