#20 常識という弱点/深山風護
少しの休憩を挟み、特訓再開。
「さっきの課題もう一回やるよ。目標は30秒間、私の攻撃に当たらないこと。風護くんが取れる択は?」
「護風棍のエアギスと、トンファー本体での打突。トンファーを使わない体術やシールドでの防御もOKだけど、体に刀が当たったらアウト。そして背中を向けて走るみたいなガン逃げはNG」
「その通り。じゃあ間合いはこの辺で……用意、ゴー!」
まずは後退して距離を取る。斗和が正眼に構えた刀の角度に応じて、風護もシールドとトンファーの構えを調整。隙のない打ち込みが一発、もう一発、いずれもガード。柄を腕に密着させての防御はトンファーの得意分野である、元々は刀相手を意識して作られた武器らしいし。
しかしここは霊域、生域の武術からは乖離した動きも頻発する、例えば。
「よっと」
斗和は高く跳び上がり、空中で横倒しになって上から風護を狙う。ゴスキル由来ではなく、
となると今度は空中で空振りした斗和の体勢が不安定になるはず。
「吹け、」
エアギスを直撃させるチャンス、と思ったが。
「――そこ」
斗和は着地した足で地面を蹴り、風護へと飛び込みつつ刀を振り上げる。エアギスじゃ間に合わない、足は斗和へと向いているから蹴りが間に合う――と反射で出かけた右足は、しかし勢いを欠いており。
「はいっ」
斗和の刀が、風護の右足のふくらはぎにヒット。ダメ押しとばかりに右の脇腹に追撃。
「――ぐっ」
ダミー刀にシェル傷害性はない、しかし実戦を意識させるために痛覚を刺激する機能が組み込まれている。正確には霊人の記憶している痛みを誘導しているみたいな原理だが、ともかくしっかりヒット箇所がジンジンする。
「はい、痛み引いたら立って」
斗和は師匠モードだとちゃんと厳しい、変に気遣うこともしない。そのメリハリは風護にも好感だった。
「――OKです、お願いします」
「よし、じゃあ私から……まずは良かったところ。刀に対するガード、反応速度も受ける位置も良くなってるかな。この調子で、受けるだけじゃなくカウンターの打撃を入れるのも目指したいね」
「はい」
「空中からの攻撃に前転を選んだのも……今回はベターか。けど霊域だと、空中から一気に落ちてくるスキルもあるから注意かな」
「はい、エアギスを前方だけでなく真上に撃てるようになれば、そっちで対処できると思ってます」
〈ミヤマさんの見込みで正解です、そろそろ上向きのも安定してくると思われます〉
ゴスキルの運用についてなら、ヤナギンガ研究員もアドバイスしてくれるのだ。
「そうだね、じゃあここからは改善点。風護くんは自分で分かる?」
風護が自覚していたのは後半の2点、順番に話そう。
「斗和さんのジャンプ攻撃を避けた後のエアギスですね。相手の動きを見ないまま、楽観的な読みで発動に移ったのは迂闊でした」
〈発動スピードがもっと上がれば、牽制も兼ねて撃っておく選択も成立しそうではありますね。けどやはり今だと前隙が長すぎる〉
「うん、その通り。けどそこでエアギスを止めたのは良かったよ。他には?」
こっちは話しづらいなあ、という躊躇いを息と一緒に吐き出してから。
「その直後ですね、斗和さんの突進に対して中途半端な蹴りを出したところ」
「うん、あのタイミングなら蹴りは間違ってないんだよ。ちゃんと出ていれば私の腹とかに当たってた、ダメージはなくても攻撃は止められた。そこからすぐに体勢を回復できれば、有利は取れなくても仕切り直しには持っていけたと思うんだ」
ぴしり、と。斗和の人差し指が風護を指す。
「それとも、蹴りじゃ不利になるって考えが浮かんだ?」
「いえ、シンプルに躊躇しました。理由は、」
分かるけど言いづらい、風護が口ごもった間に。
「訓練とはいえ女を蹴るのは躊躇っちゃうか、やっぱり」
斗和は端的に言い当てた。
「そうですね。ルール上はアリだとは分かっていても、心理的に」
「だよね、それが一番の改善点かな……はい、ここ座って」
斗和に言われ、フェンス脇に並んで腰掛ける。
「私はね、個人としてはね。風護くんのそういう、女性への配慮とか優しさとか、すごく好きなんだよ」
「はい」
「けど……いや、だからこそ。霊管軍の、それも3特対を目指す君には、必要なときにはそれを捨ててほしい……というか、捨てなきゃいけないんだ」
「はい」
斗和自身も呑み込みづらいであろう理屈を、風護だけでなく自身に刻みこむように。
「風護くんに戦いを教えられる人材は、今の日本旅団には沢山います。それでもあえて私たちトワール分隊が買って出ているのは、未来の仲間として迎えたいからってのは勿論なんだけどね」
今度は斗和が躊躇する番だった、だから風護がその先を引き継ぐ。
「3特対は、裏切った仲間と本気で殺し合うのが仕事だから。仲間相手にも本気を出すのに慣れなきゃいけない、だから斗和さんたちが相手してくれている……ですか?」
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