2-2 義侠の功罪-斗和の近接戦闘訓練-
#19 トワ師匠の青空道場/深山風護
「――という感じに、実戦でも護風棍はちゃんと使えてます」
「みたいだね、えらいえらい」
後輩の報告に、
警備任務のローテから外れていたその日、風護はクロナギ中隊の拠点を訪れていた。別部隊に配属されても、彼らは個人的に稽古をつけてくれているのだ。もちろん警備連隊でも格闘訓練は行っているので、最近の風護は訓練漬けである。これが結構心地いい。
〈エアギスの成長ペースは予想以上ですね、有効範囲もノックバック性能も格段に上がっています〉
また、ゴスキル研究室への護風棍のデータ提供も兼ねている。こちらもおなじみのヤナギンガ研究員、またまた白衣なので先生っぽい。
「ねえ風護くん、あの風のことなんでエアギスって名付けたの?」
「エアは空気、ギスはギリシャ語で防具を意味するアイギスからですね」
〈スペルはaegis、英語読みしたイージスの方が有名でしょうか〉
ただ「風」とか「突風」と言うのも分かりにくいので名付けることにしたのだ。発声が発動の助けにもなるということで、叫んで気持ちいい響きを探した。
「ああ、それで守りの風ってなるのか……よく思いつくねそういうの」
「オタクなので熱くなりがちなんですよ」
〈同感です、私はゴスキル関連の命名に霊人ライフを賭けていますので〉
「それは大袈裟すぎません?」
風護の返しに、ヤナギンガは一瞬で長文を返してきた。
〈ゴスキルの命名を保有者から委託されると、ラボの有志による検討会が開かれます。レアなゴスキルともなると命名者になりたがる人も急増しますし、その想いに経歴や階級といった差が入り込む余地はありません。
「いやめっちゃ忙しいよねラボの人たち!?」
斗和の突っ込みは今日も冴えている。
〈だからこそのリフレッシュですね。そもそも主席が文芸大好きエスペル先生ですし、みんな彼のカラーに染まりがちで〉
「ああ、なんか小説配信してたよねあの人」
〈本分たる学業をほっぽり出してやれ文化祭だの恋愛だのと夢中になるアオハル高校生と似たマインドだと思ってもらえれば〉
「アオハル高校生に村でも焼かれたんですか」
風護が言っても、ヤナギンガは笑みを浮かべるばかり。つかめない人である。
「けど私の【
〈私がラボ入りする前なのでそこまでは。そもそも会議でまとまってそうなった可能性もありますからね〉
「そっか。まあいいや、さあ特訓再開!」
斗和は立ち上がり、脇に置いていた訓練用の刀をひゅんひゅんと振る。風護も護風棍を呼び出して振りを確認。斗和の絶断は訓練で使うには危険すぎるので、安全なダミーに差し替えているのだ。
最近の課題は、エアギスだけでなくトンファー本体を用いた格闘戦の強化だ。警備任務での強力なヴァイマンへの対応、そしてその先の特対群での対レグマン戦で必要な技術。
「まずはアームブレイクの基礎練、もう一回ね」
「お願いします」
アームブレイク、近接兵装型の攻撃類ゴスキル・デバイスに対するカウンター戦術だ。霊傷性を乗せて打ち込まれた武器に対し、上手く反傷性を打ち込むことで武器の耐久性を削る。
成功する条件はいくつかあるが、分かりやすいのは「力の加わらない角度・部位への反撃」だ。つまり振られる刀の峰や腹に打撃を加えるなど。警士の制式装備であるAGシールドに加え、ゴスキルの護風棍にも反傷性がついているため、風護はスペック的にはこの戦術への適性が高いのだ。しかし当てる動きができないことには意味がない、ゆえの練習である。
「じゃあ——はいっ!」
シールドとトンファーを組み合わせて、あらゆる方向から襲ってくる斗和の斬撃を受ける、躱す、弾く。そして隙をみて刀身を叩く。生域の自分には到底できない芸当だが、霊域の体はイメージした通りに軽快に動く。
「はい今の盾ナイス、次トンファーでやろっか!」
反傷性の出力は、AGシールドよりも護風棍の方が強い。盾で刀に触れるのはそれほど難しくないが、 実戦を想定するならより強力なカウンターが望ましい。いつもなら正面からの斬り下ろしを狙うが——ひとつ、試したい流れを思いつく。
シールドで殴りかかる動きを見せて反撃を誘う、斗和は回避しつつ風護の背後へ。それを読んだ風護は、身を翻しつつトンファーを振りかぶり。
「——らあっ!」
視界の端に捉えた刀身へ、回転させたトンファーを打ち込む。
「そこまで……おお、ビックリした。読んでたの?」
「はい、このコースで斬ってくるかなってのは。背中を見せれば不意もつけそうですし」
「それは凄いし、実際に当てちゃうのも凄いけど……」
斗和は難しい顔でしばらく唸る。
「敵に背中を見せる前提っての、一人だと危ないかな。やるならもっと早く、今は狙われかねない隙になってるね」
「……確かにそうですね、読んだ通りの行動してくれるとも限らないですし」
「うん、訓練とか試合なら面白いし、実戦でもチームなら連携もできるけど、いきなりは危ないかな。けどほんとに読まれちゃってるんだ私?」
「斗和さん、俺との訓練だと速度落としてくれてるじゃないですか。それで大体似たテンポに落ち着いちゃうんですよね」
「ええマジか……じゃあ私の本気のスピードについてこれるようになってね。大丈夫、風護くんならいける!」
毎回の稽古で、斗和は風護のやる気を掻き立てる言葉を選んでくれる。先輩としての責任感に加え、斗和の生来の性格もあるのだろう。
「……分かりました、いつか斗和さんの速さに追いつきます。だから鈍らないでくださいね」
「おお~言うねえ後輩~!」
笑い合ったところで、また検討に移る。
「やっぱり、回転トンファーでアームブレイクは難しいか?」
「もう一本あればもう少し行けそうですけどね」
〈片手だけで扱える武器なら、きっかけ次第で二刀流に進化する可能性はありますね。それに元々の琉球空手だと二本で扱っていました〉
「けど今は右手だけだからな、じゃあマルガン併用も考えて、」
真剣に、けどときに和やかに。
強くなるために斗和と過ごす時間は、風護に強い生の実感を与えてくれるのだ。
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