#30 産声/深山風護
自分の死を巡る、親しかった人たちの姿を知って。
「それで俺が報われる訳ねえだろが!」
風護の心を満たしたのは、感謝でも喜びでもなく。
「お前ら揃いも揃って、俺のこと信じなかったくせに」
ずっと燻っていた叫びの、爆ぜるような炎だった。
「俺がずっと間違ってるってずっと言い続けたくせに! 全部今更じゃねえかクソども!!」
何か体が重いと思ったら、風護の腕は背後のオシムラに掴まれていた――ああ、そんなに暴れていたのか、俺は。
「……すみません、取り乱しました」
ひとまずの謝罪に、斗和は思いもよらぬ返事。
「いいの、それでいいの」
「は?」
「ちゃんと怒って、ちゃんと悲しんで、君の人生を壊した理不尽に」
「……俺は。死ぬ前の人生が間違いだったから、霊域で生まれ変わって正解だったと思ってるんです。だから気持ちの整理がついたんだ、その前提を今更崩すなんて」
「そんな整理の仕方は間違って、」
「あんたが決めるなよ!!」
憧れ続けた恩人に、嫌われようと構わなかった。
ただ、この痛みから解放されたかった。
「俺の人生だろ、俺の命だろ、どう捉えようと俺の勝手だろうが踏み込んでくんじゃ」
「私たちが守った命だ!!」
斗和の叫びに、風護の言葉が止まる。
「霊域では、私たちが。生域でも、たくさんの人が。守って支えてきた命でしょう。君自身に粗末にされるのは、嫌だよ」
そればかりは、風護に否定できない。斗和たちが体を張って守ってくれた、それは紛れもなく事実だから。
「ミヤマもさ、訓練で習っただろ」
オシムラにも諭される。
「霊管軍の作戦は、出撃した隊員みんなで生還することを前提とする。その基本的な理念から外れる奴がいると、仲間が困るんだよ」
その指摘が正しいことも分かる。風護だって、自分以外が無茶に走ることを想像すると肝が冷える。
「俺も霊域に来た頃は、お前みたいに死に場所を探してたよ。それが間違いだって気づいて、ここでみんなと生き続けようと願うようになってから、俺はここまで成長した」
「……どうやって思考を改めたんですか、オシムラさんは」
「生域のことも肯定しようと頑張った、だな」
「霊域での自分だけじゃ、ダメですかね」
「ダメってほどじゃないけどよ」
「私の知る限りね」
クミホさんが口を開く。
「生域での命を、なくして良かったと思っちゃう人は。霊域でもそう思うようになっちゃうかな」
彼女は右手を左胸に当てる。かつてそこにあった鼓動をなぞるように。
「霊域は、生域をリセットしてやり直す場所じゃない。生域の続きなんだよ、今の私たちの時間は。
だから聞かせて、ミヤマフウゴくん。君がなぜ、自分の人生を呪ってしまったのか。きっとそこにしか、未来を照らす鍵はないよ」
3人のまっすぐな眼差しに。こんなに忙しい人たちが向き合ってくれる事実に。
「……分かりました、お話します」
風護はとうとう観念した。どうせもう、かつての関係者は周りにいないのだ。
それに、この人たちなら、認めてくれる気がしたのだ。
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