#26 蛮勇の新兵VS.気高き双刃/深山風護

 サーベル女と対峙しつつ、周囲の状況を観察する。

 敵味方が入り乱れての混戦。分隊長やウシゴエモン先輩も、風護に即座に指示できる体勢にはない。

 ならば、サーベル女に目をつけられている風護はどうするべきか。単独で勝つのは不可能だろう、ならばどうにかして仲間との連携を目指すのが定石、だろうけれど。


「飛ばせ!」

 風護は再びエアギス、サーベル女は風を受け流すように身を翻す。わずかな足止めはできても、期待したほどの隙は作れていない。このままでは距離を詰められる、やはり仲間と協力して防御に徹するべきか――そのとき。


「ザッキ、退くから援護して!」

 サーベル女――ザッキ、に背後から声をかけた白服グループ。彼らは父親ヴァイマンを拘束し、さらにレントくんを連れていた。この騒ぎの中で確保されたのか。

「あー、そっか」

 ザッキが悩む素振り、その一瞬の間に風護も思考を巡らせる。


 解放同盟が父親ヴァイマンをどうする気かは分からない。ただ恐らく、ポテンシャルの高いレントくんのことは戦力として用いるだろう。つまりいずれ、あの子は霊管の敵になる。

 それは。斗和が斬るべき対象になる、ということで。


「……待てよ二刀流」

 斗和にこの子を斬らせるのは、どうにも、耐えがたい。

 だから。風護に敵意が向いているこの状況を、活かす。


 この命は張れる、斗和を悲しませないためなら。

 斗和が、自分を呪わないで済むなら。懸けられる。


「俺を殺してくれるんじゃなかったのかよ」

「……は? 何あん」


 左手でマルガンを抜き、ザッキの後ろのヴァイマンへと向ける――それだけで十分だった、ザッキは風護へと飛びかかってきた。

 風護が撃とうとしていたら、風護の左手はマルガンごと斬られていただろう。だから風護はすぐに左手を戻しつつエアギスを放った。今度はザッキの反応が遅れ、風に飛ばされる。さっきと同じ転移からの奇襲がありうるか? 警戒しつつ、風護は左手にシールドを構え直す。


「――上等だ!!」

 ザッキは空中で方向を急転換、そのまま風護へと突っ込んで反撃を仕掛けてきた。どんな技術か考える間もなく、風護は猛烈な連撃を浴びせられる。

「この、卑怯、者め」

 拘束されたヴァイマンへ銃を向けられたのが頭に来たのだろう、だとすれば風護の意図通り――いや、盾とトンファーの負荷が想像以上に重い。ガードだけでは押し切られる。


 それでも、決してジリ貧ではない。斗和ならもっと鋭い、斗和ならもっと速い。相手は二刀流だが、風護だって両手で防御できるのだ。

「新人にしちゃやるじゃんよ!」

 ザッキが叫ぶ。初対面だから新人、という判断だろうか。

「そっちこそ、」

 ヘイトを稼いで冷静さを奪うべく、風護は内心で詫びつつ地雷を踏み抜く。

「女にしてはやるじゃんよ!」

「――舐めんなっ!」


 案の定、ザッキの圧力は増した。風護は防御に徹しつつ後退、他の仲間から引き離す。

 そしてあえて塀を背にしたポジションを取り、護風棍を引きながら。

「吹け、」

 エアギスのフェイントに乗ったザッキは踏み込んできた、突きを読んで風護は横に避ける。正解、そしてもう一振りは射程外、いける。

「――はあっ!」

 霊熱を注ぎこみつつトンファーを回転させる。突き出されたサーベルは塀に弾かれた、その刀身へと打壊棍を振り下ろす。確かな手応え。


「クソっ」

 ザッキは後退しつつ、打たれた剣を気にしている。今の突きには確実に霊傷性が乗っていた、そこに風護は側面から反傷性を打ち込んだ。力の乗る方向は明らかに風護に有利、ザッキの剣には自身のダメージが返ってきったはずだ。

「痛いことしてくれる、」

 ザッキも食らったことは認めている、しかし。

「じゃん!」


 お返し、とばかりに。ザッキは双剣をクロスさせて風護へと突っ込んできた。これまでよりも段違いのスピード、風護は回避が間に合わず正面からガードする。押される、風護の背中が壁につく。

「あんた、巧いけど弱いんだよ。霊胞のスペックが全然違うのよウチとじゃ」

 もうザッキの刀身に勢いはない。しかし風護の盾とトンファーには、圧力と共に霊傷性が加わっていた。身を守る得物が、みるみる削られていく。退かせようと風護が跳ね上げた右足を、ザッキはきっちり足でブロック、さらに踏みつける。

「異性に力押しで負ける気分、じっくり味わってよ。ウチらが味わうばっかじゃ不公平じゃん」


 それはそれで一理あるし、先にジェンダーで煽ったのも風護なのだが、殺し合いの場で頷けるわけもなく。

 削りきられる前にこの押し合いを脱する。背中が壁なら思いきって。

「だ、」

 空いていた左足で壁を蹴って。

「らあっ!!」

 渾身の力でザッキを押しのけ、地面を転がる。


「そらっ」

 ザッキの追い撃ち、一発目を防いだ風護の盾が。

「とうっ」

 二発目を止めた護風棍が。次々と砕け散る。もう身を守る術がない。

 

 ――やっぱり、分不相応だったか。

 まだ霊管軍に入ったばかりの身で、それも単独で、敵の実力者と渡り合おうとは。

 そもそも分隊の指揮から外れて暴走しているのだ、明らかに風護の過失である。


 ここで斬り殺されても文句は言えない、だろう。

 崩壊した人生の先の思わぬボーナスステージも、ここで打ち切り。

 風護には相応しい最期、かもしれないけれど。

 

 ああ、意外と、惜しいな。


「ねえ、最後に選ばせてあげる」

 ザッキはサーベルを下ろして風護に問う。

「ここで死ぬか、ウチらに加わるか。

 ……あんただっておかしいと思わないの、霊管の決めた命の線引き」


 意外なことに。ザッキはこの期に及んで、風護を誘ってくれるらしい。

 生き延びることを考えれば、それは願ってもない申し出かもしれないけれど。


「温情だけはもらっときます。けど俺は、俺を導いてくれた人を裏切りたくない」

 どうしても。その言葉以外は、選べなかった。


「そ、残念」

 そしてザッキはサーベルを振りかぶった。  

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