#25 陽動と急襲/深山風護
霊人解放同盟は、霊管軍による組織的なヴァイマン討伐に反対することを主義とし、それを達成するために霊管軍の解体を目指している。そのため、ヴァイマンが絡まなくても、霊管軍の隊員には容赦なく攻撃を加えてくる。
一方、霊管軍の保護対象だとしても、軍に所属していない転現者は攻撃に巻き込まないことを鉄則としている。
そうした背景を受けて、中隊長が下した指示は。
〈子供以外の転現者は転送を開始する。念のため、屋上の戦力は移動せず防衛を継続。〉
まず、転現者の安全を最優先してイレギュラーを排除。
〈遊撃B分隊、子供はこちらに戻さず地上で保護してくれ。転送中に暴れると事故になりかねない〉
「難しいことを……!」
分隊員は悪態をつきつつ、なんとかレントくんを捕まえて抱え上げる。
〈合わせて遊撃Bはヴァイマンを引き付けて拠点から離れろ。同盟とかち合ったら勝とうせず時間を稼げ。同盟への応援は急行中の3特対に引き継ぐ〉
戦線を要救助者と引き離しつつ、危険な相手は増援に引き継ぐ。マクロで見ればいい判断だろう。
しかし、そうして引き離された危険の最前線こそ、風護たちの持ち場だった。
なおも分隊員へと暴れるヴァイマンと、抱えられた腕の中で暴れるレントくん。風護たちB分隊10名は彼らを連れ、国際会館から離れた位置へとじりじり移動する。
「風護、同盟相手は初めてだよな」
ウシゴエモン先輩に問われる。
「初ですね」
「勝とうと思うな、それは俺らの仕事じゃねえ――けどヴァイマンは倒すぞ」
「この街に生きてる人間を、これ以上巻き込んじゃいけねえ。幽霊のケジメは、幽霊がつけるんだ」
やがて隊員の一人がRaCoReSを実行、診断結果が共有される。
〈危険性:A/制御性:C/回復可能性:C/安定性:A〉
「やっぱAです、隊長」
「無理に倒そうとするな、釘付けにして後続に渡すぞ」
それからウシゴエモン先輩の案内で、ビルを背にした駐車場へと誘導。交代でヴァイマンのヘイトを引きつつ時間を稼ぎ、レントくんは少し離れたところで拘束。彼も暴れ疲れたのか、あるいは父親の変わり果てた姿に怯えているのか、おとなしくなったようだった。
「次、誰か」
「ミヤマ入ります!」
風護は打壊棍でヴァイマンの背を殴る、振り向きざまの殴打をガード。しっかりシールドで受け止めたが、予想以上の衝撃だった。振り回される腕にカウンターで打壊棍を当ててみても、まるで効いている気配がない。
「隊長、ここで粘るのも危険では」
「しかしな、ゲート発生を目前に退くのは—―」
分隊長の言葉が途中で切れる、CIPS上にアラートが表示された。付近で霊管隊員以外のゴスキルが発動された合図だ。
「周囲警戒!」
分隊長の指示に、風護はヴァイマンから距離を取りつつ道路へと出る。
「ミヤマそっち」
「はい――遠くに居ます、白服!」
霊人解放同盟は主に白い服装を選んでいるらしい、霊管の隊服にはない色だ。しかしこの距離なら主な攻撃の射程から外れている、と風護は思ったが。
「対近接、上!」
分隊長がなぜそう判断したかは分からないが、はたして彼の予測は当たっていた。頭上で弾けるような音がしたかと思うと、空中に二人の白服が現れた。
「おらっ」
道着をまとう、格闘家を思わせる同年代の青年と。
「よっ」
白いファーコートの若い女性、両手にはサーベル。見かけからして二人とも接近戦志向か。
その空手青年は父親ヴァイマンへと向かい、サーベル女は風護たちの陣形の中心へと飛び込んできた。
「フウゴこっち、剣やべえぞ!」
端的な注意と共に、ウシゴエモン先輩は盾を構えてサーベル女に迫る。つまり彼女の剣は攻撃類ゴスキルなのだろう、女性が片手で振るう剣でも致命傷になりかねないのが霊域のゴスキルだ――警戒しつつ、風護も先輩を追う。
サーベル女は独楽のように回転しつつ、両手の剣を振り回している。さらに前後左右に不規則に動いているので、マルガンで狙いをつけるのは難しそうだ。しかしガードしつつ距離を取って包囲すれば――と風護は考えかけたが。
「くっ、」
ウシゴエモン先輩は回転斬撃を正面からガードしたが、衝撃が強かったのかよろめく。
「削り多い、痛み貫通!」
先輩が叫ぶ――サーベルの斬撃により、シールドの耐久力には無視できないダメージが入り、かつ受け止めても痛覚が刺激される。つまり待ち続けてはジリ貧なのだろう。
〈包囲を狭めつつ隙間を作る、抜けたところにミヤマのエアギスだ〉
分隊長が打開を計る。その後の指示に従って隊形を変えていく、風護は飛び出したサーベル女を横から狙える位置へ。
分隊員たちは痛みに耐えつつも輪を狭め、同時にマルガンのキラーモードで牽制。動き回ることができなければ集中射撃で負ける、脱出せねばというプレッシャーを掛けるのだ。
後は包囲陣の一人がわざと離脱してサーベル女を誘導する――という流れは分かりやすい。しかし、相手にとっても読めやすいのではないだろうか。バカ正直に応じてくれないとしたら? 敵こそ風護たちの裏をかこうとするなら? 残った隙間は上。瞬間、斗和との稽古が脳裏を掠める。
その思考に分隊長も辿り着いたらしい。
〈補足、跳躍から頭上を狙う可能性あり〉
そして、サーベル女の選択はこちらの読み通り、高くジャンプしてから縦向きに回転。頭上からの攻撃に対し、分隊員たちは姿勢を低くして盾を斜め上に構える。その上へと落ちてくる敵を、風護はエアギスで狙う。
「墜と、」
「――ミヤマ待」
「せっ!」
分隊長の制止は間に合わず、風護はエアギスを撃っていた。直後、狙う先にいたサーベル女の姿が消える。
「すみま」
「上だミヤマ!」
見上げる。回転する二刀が落ちてくる。避け――間に合わない、シールドを掲げて防御、接触。
「ぐっ」
途端、感じたことのない激痛が体中を駆け巡る。まるで心臓にノコギリを引かれているような恐怖の中、なんとか仰向けに倒れつつ敵を蹴り上る。間合いが離れる、視界が歪む。霊胞に、それ以上にシールドに、無視できないダメージ。
「やっぱ気が変わった!」
サーベル女は叫びながら風護を追う、風護は体勢を回復しつつエアギスで牽制する。分隊の仲間は――解放同盟の増援だろうか、新手の白服と交戦していた。
「成長株っぽいあなたは特別に――殺してあげるね!」
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