#22 幽霊の生身/深山風護
屋上で、7メートルほどの距離を空け、風護は斗和と対峙する。
「そっちの背後にあるフェンスを出口とします。私はそこを目指して走るから、風護くんはそれを止めて。相手の武器が体にヒットしたところで行動停止、武器以外の体を使った攻撃もアリ」
「はい……ところで、斗和さんのガン待ちにはならないんですよね?」
「じゃあ、私は20秒以内にゴールするのを目指すよ」
「了解です。あの、ヤナギンガさん」
〈はい〉
「もし事故で打壊棍が出て、斗和さんのシェルが傷ついたとしても」
〈即消滅や重度障害はあり得ないですね、クリーンヒットだとしても軽度負傷で収まります。もし想定よりダメージが深くても、霊管の拠点なのですぐに治療できます〉
「そう、思い切り当てにおいで」
心配の種は潰しておく、迷わず得物を振るえるように。
〈ちなみに、実戦に置き換えるなら〉
続けてヤナギンガさんから補足。
〈トワさんが解放同盟からの心理干渉を受けて隊からの脱走を試みている、なのでミヤマさんは事態が悪化する前に確保しなきゃいけない、といったところですね〉
「ああ、あり得ちゃうんだよな……そうなっちゃった私のことは、ボコボコにしてでもちゃんと止めてね」
手遅れになった隊員の末路を誰よりも近くで見ているからか、斗和の言葉からは無二の重みが感じられた。
「仲間を手にかけるような自分には、絶対になりたくないから」
イメージを固める。斗和の信条が歪められて敵の手先になること、最強の味方が最悪の敵になること。
――背筋を駆け抜ける恐怖を、飼い慣らさなければ。
「よし、ゴー!」
「止めろエアギス!」
まずは一発、斗和に向けてエアギスを撃つ。続いて、その風を追いかけるように距離を詰めた。スピードに乗った斗和の一撃は脅威だ、助走距離は潰しておく。それでいて刀を当てるには踏み込みが必要な、中途半端な間合いを選ぶ。
「いいね――それっ」
斗和はフェンシング風の片手突きを仕掛けてくる。推測、横に避けるとゴールへの動線が空いてしまう。シールドで受けつつ外側へと流す、チャンス?
直後、斗和は流された勢いのまま素早く一回転。風護は反射的にスウェーバック、刃先を回避。
「エア、」
撃つか迷う――斗和は風護の左サイドへ動く、ならば。
「おっ?」
風護はエアギスを撃たずにサイドステップ、斗和の動線を塞ぐように左足を伸ばす。ここでの斗和の択はジャンプ、または刀での足狙い。
「ほっ」
選ばれたのは両方。斗和は上へ跳びつつ刀を振り下ろす。ギリギリでトンファーでの受けが間に合ったが、風護の体勢は不安定。ならば。
「墜とせっ」
風護は倒れ込むように後ろへ跳びつつ、エアギスを撃つ。天地が回転する中、空中の斗和がバランスを崩したのが目に入る。
「やべっ」
風護はバク転じみた動きで立ち直りつつ、斗和が尻餅をついたのを確認。
「いけっ」
走る、狙うは刀から遠い左足。斗和もそれを読んだのか、左手を支点に逆立ちしつつ蹴りを放つ――ここだ。
いくら斗和が軽業に長けていても、この体勢から刀は振れない。その動きは曲芸としては満点だが、不安定で衝撃に弱い、だから崩すには、しかし――迷いを打ち消す。
「ここで、」
叫びつつ。まずは斗和の蹴り足を左手で受け止める。触覚はあれど痛みはない、もちろんダメージはない、しかし斗和の動きには大きな隙。
「やる!」
逃さず、がら空きになった脇腹へ蹴りを入れる。霊人のフィジカルで放たれたキックに、斗和はくの字で吹っ飛ばされる。
「まだっ」
悲鳴を上げる心をねじ伏せて追う、地面を転がる斗和に迫る、刀は――来ない!
「はあっ!」
起き上がろうとする斗和の腹部へ、風護が飛び込みながら突き出したトンファーがめり込む。勢いは止まらず、そのままズルズルと斗和は引きずられ、やっと止まる。
「はっ」
終わった、と理解するのと同時に。霊域では初めて覚える、吐き気のような猛烈な嫌悪感が全身を駆け抜けたが。
「はいOK、ナイスナイス!」
ぎゅう、と。震える風護を、斗和は強く抱きしめてた。
「いいよいいよ、ちゃんと本気で当てにきたね。偉い、よく頑張った」
肯定の言葉に、背中を撫でる手に、少しずつパニックは収まっていった。
〈お疲れ様でした。シェル傷害は見受けられません、いい組み手でしたよ〉
ヤナギンガが知らせてくれる。なら心配することはない、ない……よな?
「だよね、じゃあちょっと休憩してから振り返ろうか」
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