#11 先輩、として/ヒデレッド

 ミヤマフウゴはトワとの面談の後、ツヤマルクたち導入支援課の元へ戻された。これからの暮らし方についてのレクチャーが続くはずだ。

 

 一方のトワは、ヒデと合流して持ち場へ戻ろうとしていた。

「――という感じで、責任感が強いのに自尊心が低すぎて闇が深いな~と私は思いました」

 ミヤマとの会話の記録を共有しつつ、トワはそう振り返っていた。ヒデも、彼の心理に思考を巡らせる。

「そうだね、自責的な思考が極端に強い……それか、他責的な発言を禁じているってところかな」

「けど本音では、自分は悪くないはずなのに~って怒ってるはずなんだよ。話聞いてて辛くなちゃった、もう空元気で押し切るしかなかったよ」

 本気で落ち込んでいそうな部下を見上げつつ、ヒデは廃校の中を転移装置へと向かう。


 ミヤマフウゴと二人きりで話してみたい、というのはトワの希望だった。転現者への説明は第3特対群の担当業務ではなかったものの、ヒデや群幹部陣も彼には興味を惹かれていたので、非番のタイミングで導入支援課に邪魔させてもらった。


「けどミヤマくん、トワと話して少しは気が楽になったんじゃない?」

「だといいけど……事件の話聞いたら、また落ち込んじゃうじゃん」

 ミヤマがツヤマルクに説明した事件内容と、いま生域で報道されている情報には、目立つ齟齬が一点あった。

 ミヤマが話していた「連れ去りから助けた女性」の存在が、報道では触れられていない。恐らく彼女は警察に連絡していないし、捕まった犯人たちが自分からその話をするはずがない。


「このままだと。彼がどうして危険を冒したのか、あっちには分からないまま……か」

 ヒデの口にした推測に、トワは苛立たしげに地面を蹴る。

「守ろうとした女に裏切られるって展開がこんなに続いたら、闇堕ちしても責められないじゃん。せめて私は、信じられる味方でいないと」

「……だね、君に任せて良かったよ」

 女性に裏切られた直後だからこそ、承認してくれる女性には心を開くのでは――というヒデの読みは、それなりに当たっていたのだろう。もっとも、トワにそこまでの打算があったかは分からない。純粋に仲間を思いやれる、それが巴斗和の人格だ。


「ちなみにヒデくんは、風護くんの……その、一途な感覚、分かる?」

「そもそも生域での恋愛経験がロクにないからな……家族への愛着ってカウントしていいの?」

「いや、ちょっと違いそうだから別の機会に」


 ヒデの生域での享年は8歳。それから霊域で心だけは年を重ねても、恋愛という感覚はよく分からない。享年も隊歴も近い女子と「いつか連理契約けっこんしよう」と約束はしているが、ヒデにとっては友情の延長に近い。

「ただ、ミヤマくんの話で納得するところもあったんだよ。トワも聞いたことあるでしょ、恋愛で辛い目に遭った男は強いゴスキルに恵まれるってジンクス」

「マンジュウとかそのパターンだよね。後、ゴスラボのエスペルさんとかもだっけ」


 トワが特に気負いもなくその名前を口にしたことに、ひっそりと安堵しつつ。

「そうそう、ミヤマくんも拗らせ童貞ギフテッド説の好例かなって話」

「8歳の声で童貞とか言わないでよ」

「悪いね、中身はアラサーなんだ」

「じゃあ女子高生相手に言わないで」

「トワだって中身は」

「なんですかアラサー上司さん?」

「いやなんでもない」


 などと話しているうちに転移装置へ到着。スタッフに挨拶しつつ、準備が整うのを待つ。

「それで隊長、風護くんはスカウトするんですか?」

 トワの質問に、ヒデは資料を見直しつつ答える。

「さすがに気が早すぎるけどね……ゴスキル発現実験くらいなら、研修の前でも許可下りそうかな」

「そっかあ……また戦ってるとこ見たいなあ……」


 自身が日本最強の個人戦力になっても、トワは人並みに他人の勇姿に憧れがちだ。年相応のミーハー感性に加えて、先輩としては母性的なマインドも刺激されるのだろうか。

「けど風護くん、兵隊やりたいかも分からないしなあ。けどそれでもデートしたいなあ」

「多分兵隊でしょ彼は……というかトワ、もうそんなに気に入ってるの?」

「結構きてる。お互いあっちで無事に生きて、ごく普通にどっかの高校で出会いたかったな~って妄想しちゃうくらいには」

「……そっか」

 ヒデからはあまり深入りしないでおく。


「風護くんねえ、可愛くて不器用そうだから世話焼きたくなるし、けど一途で真面目だから頼れるし。そういう男の子からね、純粋に愛されるのにね、憧れちゃうんですよ私は」

 トワの――巴斗和の、本人も知らない背景を知っている身としては。夢見るように浮き立つ彼女の声は、複雑に響く。

「だから……また思っちゃったよ」

「ああ、例のジレンマ?」

 ヒデの相槌に、トワは切なげに頷く。


「私は霊域で会えて良かったけど、彼には幸せに生きててほしかったな」

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