#8 トワール分隊、来訪/深山風護

「はい、お疲れ様~。僕の目を見てくれる?」

 声をかけてきたツヤマと目を合わせると。

「わ、出た」

 顔の隣にウィンドウがポップ、プロフィールのような文章が出てくる。


〈ツヤマルク/日本支部・総務局・人事部・導入支援課〉


「ミヤマくん、プロフ見れるね」

「ええ。ツヤマルクさん、が正式な名前なんですか?」

「霊人名だね。生前の名前を伏せたいって人も多いから、こっちで新しく決めることにしているんだ。僕は元の名字で良かったんだけど、それだと他の人と被ってね」


 部屋にいる他のスタッフのも確認してみる。ツヤマさんと同じ導入支援課の人に加えて「技術局・情報ツール部・運用支援課」の人もいた。霊人名は全てカタカナ。「クミルフィーユ」「イカズキ」「イップウドトウ」……最後の人はラーメン好きそうだな……


「ミヤマくんも後で決めてもらうから、考えとくといいかも」

「生前の氏名でもいいんですか?」

「本人が良ければ問題ないね。ちなみにミヤマとフウゴ単体だと部分的に被りあり、フルネームだと被りなしだね」

「とりあえずミヤマフウゴで考えときます」

 あちらで汚れてしまった名前だ、せめてこちらで雪ぎたい。


「さてミヤマくん。この後だけど、君を助けた部隊から面会の申し出が来ています」

「部隊……刀使いのトワさんたち、ですか?」

「そうそう。なにぶんイレギュラーな事態だし、軍の方から説明したいとのことでね。来てもらって良いかな」

「ええ、もちろん」

「うん、じゃあしばらく僕と一緒に待ってようか。こっちおいで」


 教室を離れるらしい。世話してもらった面々に礼を言ってから、ツヤマルクに連れられて別の教室へ。

「俺がドアをくぐれるの、ツヤマさんが引っ張ってくれるからですか?」

「そう、通り抜けの効果を他人にも拡大するって感じかな」

「習得できなかったらめっちゃ不便ですよね」

「それはそれで解決できるデバイスあるから、けどミヤマくんはそういうのスムーズに行くと思うよ。霊人になった直後は体を動かすのに苦労するって人も多いし、きっと君は適応性が高い」


 それから、先ほどのガイダンスを受けて気になったことに答えてもらう。


 まず、年齢の話。


「亡くなった人が霊人になるなら、霊人の大部分は高齢者になると思うんですけど、なんで年齢層が若めなんですか?」

「霊域でレグマンになるのは若い人が多いから、だね。死者の霊核が転現する割合、そこからバイマンではなくレグマンになる割合、さらにレグマンとして活動できる期間。どちらも享年の高さとは負の相関があるんだ、幼すぎるとまた別だけど」

「俺を助けてくれた部隊のリーダーも、小学生くらいの見た目でした」

「そう、ヒデレッドさんは隊員になってから20年近くになるベテランだよ」

「じゃあ、こっちで年を取っても外見は変化しない?」

「そうだね、だから見かけ小学生で100人規模のチームを率いる大幹部って例もあるんだ。ただやっぱり生前の経験がこっちに活きることも多いから、リーダーやる人の享年はアラサーくらいがボリュームゾーンかな。ミヤマくんもその資質はあるよ」

「リーダーとかは全然興味ないので……」


 続いて、社会通念について。


「そもそも霊域社会、原則的に人権を守るって意識が薄めじゃないですか?」

「そうなんだけど……初日でそこ気づくの、やっぱり令和の若者だね」

「俺個人はそこまで人権意識が強いタイプじゃないですけど、世間の流れとしてそうってのは分かってるので」

「そこ切り離せる姿勢は好感だよ。じゃあ踏み込んで答えるけど、我々の組織には基本的な人権という観念が薄いです。あくまでも令和の日本と比較して、だけどね」

「……組織には、ですか?」

「そう、霊域管理機構にはね。生域の治安を守ることを第一の主義とする組織だから」

「つまり、生域の平和なんか気にしないで、霊人第一の霊域にしようって派閥も出てきます?」

「その通り。君の巻き込まれた一連の流れもそれ絡みだけど、この後トワール分隊から聞いた方がいいと思う。僕ら文官はあんまり詳しくないからね」

「文官というと、武官に対して?」

「そう、軍属以外の通称。といっても霊管スタッフの8割くらいは軍属なんだけど」


 などと気になることを聞いているうちに、ドアがノックされる。

「はい、どうぞ」

「こんにちは~」


 現れたのはトワさん、今は例のファンタジック軍服ではなくTシャツだ、雰囲気からしてライブグッズとかの。髪も下ろしているあたり、今はオフモードなのだろう。

 しかし刀を持っていないと、高校の教室に居そうな普通の女の子である……いや訂正、普通というには可愛すぎるか。身長も思っていたより低い、風護が生前の175センチのままとして目算で150強くらい。しっかりして見えるのに幼さも残る絶妙なバランス、下手すると惚れそうである。


「どうも」

 続けてリーダーの少年、ヒデレッド隊長だったか。外見、つまり享年は小学校の中盤あたりだろう。先ほどの戦闘中に見かけた武器や服装、そして名前を見るに、特撮――それも撃隊ゲキタイシリーズのファンなのだろう。風護も昔はよく見ていた。


「お疲れ様です」

 とりあえず挨拶してみると、トワさんは「馴染んでるねえ」と笑う。

「導入はどんな段階ですか」

 ヒデレッド隊長の質問にツヤマが答える。

「コンディションは問題なし、CIPSは入れました。操作も順調です」

「じゃあミヤマくん、私のプロフ見れる?」

 トワに言われて確認してみる。ウィンドウの作りはツヤマと似ていたが、分量は非常に多かった。

「トモエトワールさん、なんですね」

「そうです、よろしくね。けどみんなトワって呼ぶかな」


 所属名は〈日本旅団・作戦本部・第3特対群・第1機動中隊(クロナギ)・第1強襲小隊・特技近接分隊(トワール)コア〉とある。強襲小隊の近接分隊、最前線オブ最前線なのだろう。

「この特対群ってのは、特殊部隊とかそういう?」

「そうそう、特殊敵……ヒデくん、フルネームなんだっけ」

「特殊敵性勢力対処作戦群だね。トクタイってのは単なる語呂の良さ」

「なるほど、特戦群っていうと陸自と被りますしね」

「やっぱり男の子、特殊部隊とか好きだよねえ」

 トワさん、かなりフランクに接しようとしてくれる。ならば風護からも。

「男子だからそうって決めつけはどうなんですか」

「そだね、ごめんごめん」

「まあ俺は好きなんですけど」

「むう、意地悪」

 トワは分かりやすく口を尖らせていた、表情が豊かな女の子である。


 所属名の他には「指揮階級」「所持資格」といった項目があり、さらに。

「この……ゴスキルってのは、特殊能力的なのですか?」

「そうそう、一部の霊人が持ってる固有の技術とか能力……って感じで合ってるよね?」

 トワに訊かれたヒデレッド隊長は「今はそんな感じでいいよ」と回答。いずれしっかり覚えてくれ、ということだろう。


 改めてトワのゴスキルの説明を読んでみる。「攻撃類・近接単体系・刀剣型・S+ランク【絶断】」とのこと。絶断ぜつだんというのが名前だろう、非常に好みなネーミングだ。

「ミヤマくん、僕とトワのを比べてみて」

 ヒデレッドのプロフィールを閲覧、トワと同じ(前略)近接分隊の分隊長とのこと。

「この分隊、トワさんがコアってのは?」

 ヒデレッド隊長から回答。

「そのチームに期待されている戦術的機能の中心となるメンバーのことだね。僕らは敵に突っ込んで速攻撃破することが求められていて、そのために一番大事なのがトワのゴスキルなんだ。今度は僕のをプロフを見てほしい」


 ゴスキルは「攻撃類・射撃多用途系/補助類・妨害系、 銃器型・Aランク【ヒデレッドブラスター】」とある。スキル名に突っ込むのは……やめておこうか。まだハートが若い時期に考えたんだろう。


「つまりトワさんは攻撃全振りの刀、ヒデレッドさんは色々使える飛び道具、ただ総合評価だとトワさんの方が上って感じですか?」

 頷くトワ。

「そうそう、やっぱりオタクは異能力まわりの理解が早いよね」

「オタクって決めつけはどうなんですか人のこと」

「違うの?」

「アニメもゲームも人並みに好きですけど、張り切ってオタクを名乗れるほど詳しいとかじゃないので」

「そんなクソ真面目な……」

 さっきの掛け合いが不発に終わり、渋い顔のトワ。


「ちなみに僕も含め、霊管スタッフの9割以上はゴスキル持ちじゃないです。ノンゴスって呼ばれるね」

 ツヤマに続き、ヒデレッド隊長が風護に言う。

「けどミヤマくんは持っているはずだよ。自分で覚えてるかな?」

「ええ、トンファー出して風が起きて~みたいな」

「出そうと思って出た?」

「いや、はっきりとは。なんとかなれって念じたような覚えはあります」

「なるほど……」

 興味深そうな面持ちのヒデレッド隊長を、トワがつつく。


「ねえヒデくん、まずはモエカッチのこと説明した方が」

「ああ、そうだったね。じゃあミヤマくん」

「はい」

「君を巻き込んでしまった戦いについて説明します。あの女がなぜ部隊から逃げていたのか、なぜ君を人質に取り、そして殺そうとしたのか。理解してもらえるはずだ」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る